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会社の飲み会で潰れた先輩を家まで送ったら、玄関で「帰さない」と言われた入社一年目の俺が、飲み会で潰れた二十九歳の先輩を家まで送ったら、玄関先で「帰さない」と真顔で言われた。実は先輩はそこまで酔っていなくて、俺がちゃんと確認すると、はっきり「今夜は正気だから」と答えてくれた。
同居してる幼馴染に「私の推しに似てる」と言ったら、本気で怒られた家賃折半で同居して二年目、幼馴染の航に「推しの岸谷レオに似てる」と言った瞬間、空気が凍った。冗談のつもりだった一言に本気で怒った彼が、実は自分を見てほしかったのだと気づいてから、二人の関係は静かに変わっていく。
マッチングアプリで三回目に会った日、彼が私の部屋の合鍵を作ってきた三回目のデートで合鍵を渡された私は、てっきり「うちに来て」の意味だと思って身構えたら、渡されたのは彼の部屋の鍵だった。勘違いから始まった夜は、変な空気のまま、思いのほか甘い方向に転がっていき、気づけば私は彼の部屋のベッドまで連れていかれていた。
亡き夫の親友に、四十九日の夜「まだ泣いていないだろう」と言われた夫を亡くして四十九日、三十五歳の紗和は、葬儀のすべてを取り仕切ってくれた夫の親友、四十一歳の遠野に「まだ泣いていないだろう」と指摘される。悲しみを声に出せずにいた夜、独りで生きていく覚悟だけを固めていた紗和は、その一言でようやく崩れ、二人は喪失の先にある生を、そっと確かめ合うことになる。
社内恋愛禁止の会社で、私は毎週金曜だけ上司の部屋の合鍵を使う就業規則で社内恋愛が禁じられた会社で、三十歳の主任と三十七歳の部長は、毎週金曜だけ他人のふりをやめる。四ヶ月続いた秘密が、同僚の異動という現実を見せつけられた夜、ついに耐えられない重さに変わる——このまま隠れ続けるか、何かを手放して外に出るか。
十年ぶりの同窓会で、当時いちばん話せなかった相手と最後まで残ってしまった大学のゼミで四年間同じ教室にいたのに、ほとんど言葉を交わせなかった相手と、十年ぶりの同窓会の二次会に最後の二人で残ってしまった。互いに「嫌われている」と思い込んでいた勘違いが解けたとき、三十二歳になった二人の間に、ようやく素直な距離が生まれる。
離婚した元夫と、再婚相手の顔合わせ前夜に同じホテルに泊まっている三年前に離婚した元夫と、妹の結婚式前夜、同じホテルのバーで鉢合わせた。互いに新しい相手がいると思い込んでいたのに、口を開けば出てくるのは、離婚の理由にもならなかった小さな本音ばかりで——三十六歳と三十九歳が、ようやく素面で向き合う一夜。
不眠の魔導具師 第三話 灯を分け合う夜最後の支払いを済ませ、ヴェラは客でなくなった。もう一線を引く理由をなくしたレインの前で、彼女は自分の言葉で望みを差し出す。灯り一つの工房に、二人だけの夜が満ちていく――スローバーンの果てに辿り着く、静かな官能の結末。
不眠の魔導具師 第二話 触れる指先三日ごとに工房へ通ううち、ヴェラは少しずつ二年前の記憶を語りはじめる。触れ合う指先に募る熱を、レインは魔導具師の一線として押しとどめるが、ある夜、ヴェラは自分の望みをはっきりと言葉にする。
不眠の魔導具師 第一話 眠れない夜の客辺境の街で夜だけ灯る工房。魔導具師レインは、触れた者の「眠れなさの形」を読み取り、安らかな眠りのための道具を作る。ある夜、二年眠れていないという護衛長ヴェラが訪れ、手っ取り早い魔除けを求めるが、レインは安易な処方を拒む。
離婚届を出した日の夜、行きつけのバーの店主は初めて私の名前を呼んだ離婚届を提出した夜、三十四歳の千夏は六年通ったバーを訪れる。店主の榊は初めて名前を呼び、「お客さん」で通してきた歳月の理由を、今夜だけ言葉にする。誰も悪くない結婚の終わりと、静かに待ち続けた年上の男の告白を描く、大人のハッピーエンド短編。
十歳年下の弟子に「先生と呼ぶのはもうやめます」と言われた夜夫の遺した硝子工房を継いで三年、四十路手前の澪は十歳年下の弟子・悠一と難しい特注品を仕上げる。窯の火を落とした夜、彼は「先生と呼ぶのはもうやめます」と告げ、抑えてきた想いが静かに動き出す。
契約結婚の相手が、契約書にない「毎晩の抱擁」を要求してくる祖母の遺した古書店を守るため、汐里は一年限りの契約結婚を選んだ。家賃も家事分担も寝室の別も明記された契約書に、夫となる建築家はただ一条だけ、書かれていない条件を加えてきた——「毎晩、少しだけ抱きしめさせてほしい」。
五年ぶりに再会した幼馴染の外科医は、もう私を離す気がないらしい父の緊急手術で五年ぶりに帰った町で、執刀医の欄に幼馴染の名前を見つけた柚葉。何も告げずに町を出た自分を、律は責めもせず、ただ「待っていた」とだけ言う。逃げ場を差し出し続ける彼の静かな執着に、心がほどけていく大人の再会譚。
政略結婚の初夜、冷徹と噂の辺境伯は毛布を三枚重ねてから私に触れた政略結婚で嫁いだ先は、冷徹と噂の辺境伯——けれど初夜の彼は、凍える寝台に毛布を三枚重ねてから、震える指先で私の手にそっと触れた。不器用な優しさに少しずつ心を開いていく、雪深い辺境からはじまる大人の夫婦譚。
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、隣国の若き公爵に「全部あなたにください」と言われています建国祭の夜、伯爵令嬢イザベルは王太子から大勢の前で婚約破棄を告げられる。すべてを失った彼女に、隣国の若き公爵が歩み寄り、静かに手を差し出す。──長年見つめ続けてきた想いが、身分差を越えて花開く宮廷溺愛譚。
ガラス工房の夏灼熱の炉を囲むガラス工房で、今年秋の独立を控えた二十九歳の女職人と、六年間彼女を導いてきた三十四歳の兄弟子が、最後の共同作業の夜を迎える。師弟という言葉の下に押し込めてきた想いが、炉の残り火とともにようやく形になっていく。
事始めの冬書道教室の稽古納めの夜、三十二歳の女師範と、十五歳年上で生徒として通う四十七歳の元商社マンが、墨を磨る指先の熱に気づいてしまう。「あなたと年を越したい」という一言をきっかけに、師と生徒という一線が静かに溶けていく。
雨音の旅館山あいの温泉旅館で、五年前に別れたライターの美織とカメラマンの隆平が、豪雨による足止めの夜に思いがけず再会する。貸切の露天風呂に並んで座るうち、雨音だけが響く静けさの中で、消えたはずの熱がふたたび灯っていく。
深夜の秘宝館深夜の美術館の修復室で、三十一歳の学芸員と三十八歳の修復士が、半年間毎晩顔を合わせながら気づかないふりをしてきた想いに、ついに動かされる。完成が近づく一枚の絵を前に、「今夜だけは、理由を作ってもいい?」の言葉が、二人の距離を溶かしていく。
雨の館ホテル記録的な豪雨で孤立した山あいの洋館ホテルが停電した夜、たまたま居合わせた三十代の男女が、互いの素性も名字も知らないまま蝋燭の灯りひとつを分け合う。「今夜だけは他人じゃなくていい」という言葉をきっかけに、名前のないまま二人の距離が縮まっていく。
月夜の喫茶店満月の夜だけ閉店後も灯りをともす喫茶店で、四十二歳のマスターと三十二歳の常連客が、一年間コーヒーの湯気ごしに言葉を交わし合ってきた。「涼子さんが、来るからです」という一言をきっかけに、カウンター越しの距離が一気に縮まっていく。
熱帯夜の宿直室台風で終電を失った地方新聞社の宿直室に、三十三歳の先輩記者と二十七歳の後輩記者が二人きりで取り残される。五年間、後輩として密かに想いを寄せてきた男の視線に気づいていた先輩は、「今夜だけは忘れてもいい?」の一言で、二人を隔てていた一線を静かに壊していく。
古書店の合鍵深夜まで灯る古書店で、四十二歳の店主と、週に一度木曜だけ通う二十九歳の常連客が、売り物にしない稀覯本を貸し借りする一年越しの駆け引きを続けてきた。「今夜だけは、貸すんじゃなくて渡したい」という言葉をきっかけに、帳簿にはつけられない夜が始まる。
雪明かりの一夜雪深い温泉宿の帳場に、三十歳の沙也加が偶然訪ねた先で、八年前に別れた恋人の悟が仲居頭として立っていた。一夜だけの客として泊まる彼女を、悟は貸切の露天風呂へと誘い、八年分の距離を雪明かりの中で測り直していく。
夜の調律師深夜のバーで週に一度ピアノを調律する三十四歳の女と、閉店後の店にひとり残る三十六歳のバーテンダーが、雨の夜、一年間積み重ねてきた沈黙の距離を越える。「直したくない夜も、ある」という言葉が合図になり、狂ったままの音の続きを二人で確かめ合う。
陽炎ホテル海辺の古いホテルで、名前も職業も知らないまま十年間、年に一度だけ同じ部屋で落ち合ってきた男女。今年、左手に指輪をはめた四十歳の女は、この一夜を最後にすると決めて訪れる。十一年目の夏、二人は名前のないまま、これまでで一番長い夜を過ごすことになる。