連載
複数話にわたる作品をまとめています。話一覧から第1話をたどれます。

転生したら滅びる家の三女でした ~十年後の処刑を回避します~
二十二歳の誕生日の朝、セラは前世を思い出した。日本の出版社の校正者だった二十九年と、この国の史書の翻訳を読んだ記憶。そこに、この家の末路が書いてあった。十年後の夏、アーデンハイト侯爵家は一族もろとも処刑される。武力も魔法も無い三女は、覚えていることを紙に書き出し、年号順に並べ替えた。一行目は、半年後だった。

最弱テイマーが拾った卵は、竜でした
従魔一匹しか従えられない等外テイマーのロウは、二十六歳でギルドの札を外された。帰り道、東の岩場の石の窪みに卵が一つあった。転がっていたのではなく、置いてあった。その夜、宿の部屋で卵が割れる。出てきたのは手のひらに乗る大きさで、火も吐けず、飛べもしない。三百年前に絶えたはずの生き物だった。

悪女と呼ばれた侯爵夫人は、離縁状に判を押してから本気を出す
社交界で十年、悪女と呼ばれ続けたヴェルンハイム侯爵夫人アデル。その評判は、夫の家を守るために自分で育てたものだった。秋の午後、侯爵は書斎で長い言葉を選びながら離縁を切り出す。アデルは最後まで黙って聞き、聞き終えて訊いた。「それで全部ですか」。そして懐から、朱肉の乾いた古い判を出した。

偽聖女として追放されたので、隣国で薬屋を始めました
聖女の力が無いと暴かれ、ミアは国境の外へ押し出された。もともと彼女がやっていたのは祈りではなく、祖母の手帳に書かれた薬の調合だった。三日歩いて着いた寂れた街で、宿の主が熱を出して寝込んでいる。道端に灰根が生えている。ここは王国の外で、薬は罪ではない。

死に戻り花嫁は、三度目の初夜で毒杯を割る
政略結婚の初夜、花嫁レナは毒杯を飲んで死ぬ。目が覚めると婚礼の朝に戻っている。二度目は寝室の花で、三度目は香炉で死んだ。四度目の朝、鐘が六つ鳴る。今日は杯を飲まない。受け取って、床に落として、割る。夫となる男が動きを止めて、言った。「……また、割ったのか」

白紙の国の帳簿係
決算の帳簿が三万二千円合わない夜、経理課長の井原遼は、見知らぬ石の穀倉で目を覚ました。誰もいない廃村、机に残された古い台帳と印章。夕暮れに現れたのは、追われている若い女だった。剣も魔法も持たない男が、この世界で最初に使った武器は、一枚の紙だった。

ダンジョン対策課の窓口係 ~役所の万年係長、世界最深部に呼ばれる~
東雲市役所の三階、南の端にダンジョン対策課がある。職員は四人。万年係長の黒木隆之は、剣も魔法も持たない四十七歳の公務員で、できることは十二年分の申請書を覚えていることだけだ。その日、受付四十一件。差戻し六件。そして、第七層の申請が今週だけで十二件あった。去年の同じ週は、二件だった。

追放された毒見料理人、辺境で屋台を始めたら国が動いた件
王の食卓に盛られた毒を防いだのに、毒を盛ったと濡れ衣を着せられ、王宮の試膳官リゼは辺境へ追放された。持ち物は包丁一本と塩の小袋、銅貨が八枚。銅貨三枚でたどり着いた街道の街グレンモアで、宿の女主人から鍋を借りて始めた屋台の一杯目が、この街の黒パンに混ざった「嘘」を見抜く。舌で嘘が分かる料理人の、成り上がりが始まる。

十八の朝に前世を思い出した測量士は、動く大地に百年の線を引く
大地が年に数歩ずつ動く世界で、測量士は毎年、国境と道と井戸の位置を測り直す。ハルの谷の見習いノアは、十八の誕生日の朝に前世を思い出した。現代日本の測量技師として六十年生き、生まれた町から一度も出なかった男の記憶だった。その日の午後、ノアは師匠に測り間違いを叱られる。だが間違っていたのは、ノアの数字ではなかった。

境界の従者
没落しかけた子爵家に仕える従者ラウルは、病弱な若き当主イーサンのために、これまで幾度となく危険な役目を身代わりで引き受けてきた。ある日イーサンから告げられた一言が、ラウルの献身の意味を揺るがす。

辺境の鑑定士
都を追われた帳簿係カイは、ある日「万物の来歴が視える」力に目覚める。辺境の街で行き倒れかけた彼は、一軒の質屋で誰も気づかなかった錆びた剣の真価を見抜き、店主とギルド職員を驚かせる。だがその噂は、思わぬ場所へ届いていた。

月の裏の図書館
月の裏側に、地球のあらゆる「書かれなかった物語」を収蔵する図書館がある。司書AIのセレネが管理するのは、人類が書こうとして書けなかった小説たち。ある日、百年前に貸し出されたきりの一冊の返却通知が届く。

境界の従者
没落しかけた子爵家に仕える従者ラウルは、病弱な若き当主イーサンのために、幾度となく危険な役目を身代わりで引き受けてきた。ある日イーサンから告げられた一言が、ラウルの献身の意味を揺るがす。同名小説の第一話をコミックにしたもの。

辺境の鑑定士
都を追われた帳簿係カイは、辺境の街ドルムンドの質屋で、誰も気づかなかった錆びた剣の真価を見抜く。表面の錆の下にあるのは、二百年前に王国で鍛えられた魔鉄の儀礼剣。その噂は、思わぬ場所へ届いていた。同名小説の第一話をコミックにしたもの。
試作版月の裏の図書館
月の裏側に建つ図書館には、地球で書かれなかった物語だけが収蔵されている。司書AIのセレネのもとに、百年前に貸し出されたきりの一冊の返却通知が届いた。