#官能
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官能
11 作品(小説11件)
小説

ガラス工房の夏
灼熱の炉を囲むガラス工房で、今年秋の独立を控えた二十九歳の女職人と、六年間彼女を導いてきた三十四歳の兄弟子が、最後の共同作業の夜を迎える。師弟という言葉の下に押し込めてきた想いが、炉の残り火とともにようやく形になっていく。

事始めの冬
書道教室の稽古納めの夜、三十二歳の女師範と、十五歳年上で生徒として通う四十七歳の元商社マンが、墨を磨る指先の熱に気づいてしまう。「あなたと年を越したい」という一言をきっかけに、師と生徒という一線が静かに溶けていく。

雨音の旅館
山あいの温泉旅館で、五年前に別れたライターの美織とカメラマンの隆平が、豪雨による足止めの夜に思いがけず再会する。貸切の露天風呂に並んで座るうち、雨音だけが響く静けさの中で、消えたはずの熱がふたたび灯っていく。

雨の館ホテル
記録的な豪雨で孤立した山あいの洋館ホテルが停電した夜、たまたま居合わせた三十代の男女が、互いの素性も名字も知らないまま蝋燭の灯りひとつを分け合う。「今夜だけは他人じゃなくていい」という言葉をきっかけに、名前のないまま二人の距離が縮まっていく。

古書店の合鍵
深夜まで灯る古書店で、四十二歳の店主と、週に一度木曜だけ通う二十九歳の常連客が、売り物にしない稀覯本を貸し借りする一年越しの駆け引きを続けてきた。「今夜だけは、貸すんじゃなくて渡したい」という言葉をきっかけに、帳簿にはつけられない夜が始まる。

熱帯夜の宿直室
台風で終電を失った地方新聞社の宿直室に、三十三歳の先輩記者と二十七歳の後輩記者が二人きりで取り残される。五年間、後輩として密かに想いを寄せてきた男の視線に気づいていた先輩は、「今夜だけは忘れてもいい?」の一言で、二人を隔てていた一線を静かに壊していく。

深夜の秘宝館
深夜の美術館の修復室で、三十一歳の学芸員と三十八歳の修復士が、半年間毎晩顔を合わせながら気づかないふりをしてきた想いに、ついに動かされる。完成が近づく一枚の絵を前に、「今夜だけは、理由を作ってもいい?」の言葉が、二人の距離を溶かしていく。

月夜の喫茶店
満月の夜だけ閉店後も灯りをともす喫茶店で、四十二歳のマスターと三十二歳の常連客が、一年間コーヒーの湯気ごしに言葉を交わし合ってきた。「涼子さんが、来るからです」という一言をきっかけに、カウンター越しの距離が一気に縮まっていく。

雪明かりの一夜
雪深い温泉宿の帳場に、三十歳の沙也加が偶然訪ねた先で、八年前に別れた恋人の悟が仲居頭として立っていた。一夜だけの客として泊まる彼女を、悟は貸切の露天風呂へと誘い、八年分の距離を雪明かりの中で測り直していく。

陽炎ホテル
海辺の古いホテルで、名前も職業も知らないまま十年間、年に一度だけ同じ部屋で落ち合ってきた男女。今年、左手に指輪をはめた四十歳の女は、この一夜を最後にすると決めて訪れる。十一年目の夏、二人は名前のないまま、これまでで一番長い夜を過ごすことになる。

夜の調律師
深夜のバーで週に一度ピアノを調律する三十四歳の女と、閉店後の店にひとり残る三十六歳のバーテンダーが、雨の夜、一年間積み重ねてきた沈黙の距離を越える。「直したくない夜も、ある」という言葉が合図になり、狂ったままの音の続きを二人で確かめ合う。