力や技を持つ者を物語に置くとき、できることだけを決めると筋は痩せる。実際に物語を動かすのは、できないことの一覧のほうである。水に入れない、嘘がつけない、名を呼ばれないと動けない、一日に一度しか使えない――こうした制約は、そのまま障害の設計図になる。何ができるかは場面を一つ解決するだけだが、何ができないかは場面をいくつも生む。
できないことは、同時に人物の輪郭にもなる。何を苦手とするかは、何を得意とするか以上にその人物らしさを伝える。そして見せ場は、制約を抱えたまま何かを成し遂げるところにこそ生まれる。ここで制約を都合よく外して解決してしまうと、それまで積み上げた緊張が一度に流れ落ちる。むしろ、できないままで済ませる道を探させるか、破ったぶんの代償を払わせるかを、あらかじめ決めておく型である。
型のバリエーション
- できないことが、決定的な場面で障害として立ちはだかる型。
- 周囲がその制約を知らないまま、期待をかけてしまう型。
- できないことを補う工夫を重ねるうちに、別の道が見つかる型。
- 制約の解ける条件が示され、解くかどうかを本人が選ぶ型。
- できないとされてきたことが、実は禁じられていただけだったと分かる型。
筋書きの例
- 水に触れられない者が、川向こうにしかないものを取りに行かねばならなくなり、渡らずに済む方法を探し続ける。
- 嘘をつけない性質の者が、真実を告げれば相手を壊すと分かっている場面で、黙るという選択だけを残される。
- 一日に一度しか力を使えない者が、その一度をいつ使うかを決めかねたまま日が暮れていく。
組み合わせやすい題材
関係性の「欠けたところのある相棒」は、この設定を関係の側から書いた型で、対にして使える。テーマの「禁じられたもの」と重ねれば、できないことと禁じられていることの境目そのものを扱える。プロット型の「修理不能と言われた品」は、できないと言われた判断を疑うところから始まる型にあたる。テーマの「言葉が通じない」は、最も日常的で解きにくい制約として噛み合う。モチーフの「マスコットという形式」に制約を一つ足せば、記号的な存在にも筋が生まれる。