企画書
企画案 ― 隣室の無口な料理人が、俺の夕飯だけ作りすぎる
古いアパートの隣同士。深夜まで働く三十歳の校正者と、昼に働く三十二歳の無口な料理人。料理人は「作りすぎたので」と言って、毎晩ちょうど一人前を玄関に置いていく。作りすぎた人が、一人前を余らせることはない。隣人に世話を焼かれる長文ラブコメの型を、大人の生活で。企画案。
企画案。まだ本文は書いていない。 連載にするかどうかを、この紙で決める。
型は「隣人に世話を焼かれる長文ラブコメ」。文庫の恋愛ものでいちばん強い形だが、学生ではなく、三十歳と三十二歳の生活でやる。学校は舞台にしない。全員18歳以上。
一行コンセプト
作りすぎた人が、毎晩ちょうど一人前を余らせることはない。 だが俺は、それを指摘しない。
なぜ「作りすぎる」か
世話を焼く側が「世話を焼いている」と認めない。焼かれる側も「焼かれている」と認めない。二人とも認めないまま、夕飯だけが毎晩届く。この「認めない」の期間が、この作品の全部だ。認めた瞬間に、話が終わる。
だから第1巻は、認めない理由を一つずつ剥がしていく。料理人がなぜ作りすぎるのか。校正者がなぜ指摘しないのか。理由は両方とも、恋ではないところから始まる。
二人
- 柏木ナオ(30): 出版社の校正者。在宅で、夜型。誤字を見つける仕事なので、「作りすぎた」の嘘にも最初から気づいている。気づいているのに言わないのは、言うと夕飯が止まるから、と自分に説明している
- 隣室の料理人、瀬川ヒナ(32): 昼は小さな食堂で働く。無口。第1巻の台詞は十一個で、うち六回が「作りすぎたので」。ナオの玄関に夕飯を置くのは、第1話の三か月前から
骨組み(第1巻 全12話)
軸は三つで、夕飯の献立(毎話一品。献立が二人の距離を示す)/ナオの仕事(校正の細部。誤字を見る目が、人を見る目になる)/ヒナが作りすぎる理由(第1巻の縦糸)。三つが第12話で交わる。
| 話 | 献立 | 起きること |
|---|---|---|
| 1 | 肉じゃが | 三か月目。玄関の一人前。ナオが初めて礼を言いに行く。「作りすぎたので」 |
| 2 | 焼き魚 | 一人前の量が、ナオの食べる量とぴったり同じ |
| 3 | 味噌汁だけ | 献立が減った夜。ヒナが具合を悪くしている |
| 4 | カレー | 二日続けて同じ献立。作りすぎたのは本当だった。初めての本当 |
| 5 | 弁当 | ナオが昼に出かける日。玄関に弁当がある。誰にも言っていないのに |
| 6 | 何もない | 初めて夕飯が来ない夜。ナオが食堂へ行く |
| 7 | 食堂の定食 | 食堂で会う。ヒナは仕事中で、何も言わない。定食が一人前多い |
| 8 | 煮物 | ヒナの妹が部屋を間違えて訪ねてくる。ヒナの事情が半分。作りすぎる理由の、恋ではない側 |
| 9 | 鍋 | 二人で食べる。初めて。認めない |
| 10 | おにぎり | ナオの仕事の締切。三日、玄関におにぎり |
| 11 | 冷めた夕飯 | ナオが受け取らなかった夜。理由はナオの側(返していない三枚の小皿の持ち主) |
| 12 | 肉じゃが(再) | 第1話と同じ献立。「作りすぎたので」に、ナオが初めて返す。認めない。だが、皿を返しに行く |
この作品の売り
- 台詞が少ない。ヒナの台詞は第1巻で十一個。読者はヒナの言葉ではなく献立で読む
- 量が語る。一人前の量、器、温度。世話を焼く側の感情を、全部食べ物で書く
- 仕事の細部。校正者の目(誤字、ルビ、字間)が、隣人の嘘を見る目になる。そして見ても言わない
- 大人の距離。壁一枚、玄関一つ。三十歳と三十二歳は、簡単に踏み込まない
語りと文体
- 一人称・ナオ。ぼやきが多く、自分の気持ちだけ校正できない
- ヒナの内心は書かない。台詞と献立と、皿の置き方だけ
- 一話 5,000〜7,000字。九日に一話(連載に上げるなら回転に入れる)
リスクと、どう避けるか
- 既存の隣人ラブコメと被る。→ 学生にしない。天使・妹・ギャルのような記号を使わない。台詞を減らし、献立で書く
- 動きが無い。→ 毎話、献立と皿の置き方が一つ変わる。それが事件
- 甘すぎる。→ 第8話でヒナの理由が恋ではないと分かる。第11話でナオが受け取らない夜を置く
守る線
全員18歳以上。学校・学生を舞台にしない。実在の人物・団体・実在の店を出さない。非同意を肯定的に描かない。既存作品の固有名詞・固有の仕組みを持ち込まない。