世界観
世界観 ― 約定と、名を書く資格と、白紙の国
紙に名を書き、印章師が印を押した約束は世界そのものが守らせる。破れば名が落ちる。名を書ける者は帝国の書記院が独占し、獣人や流民は所有される側にしかなれない。三百年前に国ごと名を落とした土地が、白紙の国。
ここに書いてある規則は動かさない。本文で増やした設定は、ここに書き足してから使う(設定の食い違いは連載の一番の敵)。
約定(やくじょう)
- この世界には約定という法則がある。紙に当事者双方が自らの名を書き、立会人(印章師)が印を押すと、その約束は世界そのものが守らせる
- 約定を破った側は名が落ちる。本人は生きているが、誰の記憶からもすり抜け、呼ばれず、数えられず、社会から消える。殺されるより恐れられる
- 約定は「書いた通り」にしか働かない。曖昧な文言は曖昧にしか守られない。だから文面がすべて。この作品の「戦闘」は文面の読み合いである
- 名を書かず、印も押さない紙は、ただの報告書。約定ではない(第1話で遼が使ったのはこちら)
名を書く資格
- 自分の名を書ける者を**書記(しょき)**と呼ぶ。帝国では書記院が資格を独占し、平民・獣人・流民は「印(しるし)」しか持てない
- 名を書けない者は約定の当事者になれない。つまり所有される側にしかなれない(奉公、傭兵、婚姻、土地、すべて他人の名で結ばれる)
- 名は質に入れられる。「名を預ける」約定を結ぶと、預かった者がその人物の名で約定を結べる。傭兵団はこうして兵を縛る
- この世界の構造的な不正はここにある。物語の到達点は、誰もが自分の名を書ける国
白紙の国(はくしのくに)
- 三百年前、建国の約定を破って国ごと名が落ちた国がある。地図に無く、人々の記憶からすり抜け、その土地は「白地(しらじ)」と呼ばれて誰も近づかない
- 帝国の東、山脈と大河に挟まれた盆地。廃墟、水路、石の穀倉、地下の文書庫が残っている
- 白地が見えるかどうかは、その者がこの世界の「帳簿」にどれだけ載っているかで決まる
- 帝国の記録に名で載っている者(帝国民・書記・貴族)には見えない。目が滑り、道が絶えて見え、理由なく引き返す
- 名を落とされた者の縁者など、帳簿に半分だけ載っている者にはぼやけて見える(十四軒が七つか八つに見え、指さされれば焦点が合う)
- 名を持たない者(獣人・流民・帳簿に一度も載っていない者)と、外来者の遼にははっきり見える
- つまり、白地に集まれるのは「帳簿に載っていない者たち」だけ。名を持たない者たちの国になる理由は、ここにある
- 名を落とす罰はこの世界の記憶に効くもので、遼はこの世界の記憶の外から来た。この一点が、遼がここで国を作れる理由
魔法・種族
- 約定以外に派手な魔法は無い。低魔法世界。剣と弓と毒と火
- 獣人(狼系・鹿系・鳥系)と、山の民、大河の民がいる。帝国では獣人は名を持てない
- **印章師(いんしょうし)**は立会人の資格を持つ職。印章は血筋で受け継ぐ。帝国では書記院の下に置かれているが、本来は書記より古い職
帝国
- ヴァルデ帝国。大陸の中央。書記院と徴税院が二本柱。皇帝は遠く、官僚が動かす
- 傭兵は名を書けない。名は団長が握っている
廃村(第1話で確定した地理)
- 家十四軒、井戸一つ、大きな石の建物(穀倉)一つ、役場らしい建物一つ
- 役場の机に、革の台帳と印章師の石印が残っていた。台帳の最後の頁は『麦、なし。塩、なし。人、一。』『この地に、数を偽らぬ者を。』署名は滲んで読めない
- 入口の石。追手はここまでしか来られない