ある人物が見せる顔を、あらかじめ数種類に絞っておく――いつもの薄い笑み、不機嫌なときの半目、驚いたときの一瞬。持ち札を限ると、読者はその人物の顔を覚え、次に何が来るかを予測できるようになる。予測できることはこの型の弱点ではなく、仕掛けそのものである。予測が立っているところにしか、裏切りは置けない。
見せ場は、持ち札のどれでもない顔がただ一度だけ現れる場面にある。そこまでに何度その人物の顔を見せたかが、その一度の重さを決める。もうひとつ、同じ顔が場面によって別の意味に読めることも重要である。いつもの笑みが、事情を知った後の読者にはまるで違って見える。表情を変えずに置いておくことは、周囲の状況の変化を測るための目盛りを置くことでもある。
型のバリエーション
- 限られた表情しか見せない人物が、たった一度だけ別の顔を見せる型。
- 同じ表情が、事情を知る前と後で別の意味に読めるようになる型。
- 感情と表情が食い違っており、周囲が誤って読み続ける型。
- 表情を作ることを職や立場として課されている人物の型。
- 顔を覆っている人物の、わずかな部分だけで感情を読ませる型。
筋書きの例
- 何があっても同じ薄い笑みを崩さなかった人物が、ただ一度だけ笑わずに黙り込む。その一度が、それまでのすべての笑みを読み直させる。
- 客の前の顔と素の顔を厳密に使い分けてきた人物が、閉店後の店内で、どちらでもない顔をしているところを見られる。
- 面を着けたまま人と接する者の、目元のわずかな動きだけを頼りに、相手が気持ちを推し量る。
組み合わせやすい題材
モチーフの「影絵で見分ける」「その人物の色」と並べると、遠くでは輪郭と色、近くでは表情と、距離ごとに違う手がかりが用意できる。モチーフの「口ぐせ」と組めば、決まった顔と決まった言葉がそろって現れる約束を作れる。モチーフの「喋らない登場人物」では表情が唯一の手がかりになるため、この型が全面に出る。モチーフの「鏡」は、自分の顔を自分で見る場面を用意する。