黒い雨
- 作者
- 井伏鱒二
- 発表
- 1965–1966年
- 国
- 日本
- 媒体
- 小説
被爆から数年後の広島の村で、姪の矢須子の縁談のため、叔父が被爆当時の日記を清書していく形式の長編。原爆の惨禍を、日常の記録の淡々とした筆致で描き、原爆文学の最高峰と評される。
1965年から1966年にかけて連載された。惨状を直接叫ぶのではなく、縁談のための証明という日常の営みを額縁に、日記の引き写しという抑制された形式で当日の記録を積み重ねる方法を採る。誇張を排した記述がかえって出来事の重さを伝えるという逆説は、災厄を書く文学の方法として決定的な影響を残した。降り注いだ黒い雨が歳月を経て姪の身体に現れてくる構成は、終わらない被害というこの主題の核心を体現している。
この作品が使っている物語の型
- 隠していた病誰にも打ち明けずに病を隠し続けてきた人物の秘密が、いずれ明らかになるまでの過程を描くプロット型。必ずしも余命の話に限らない広さを持つ。
- 日常が壊れる一日何の変哲もない一日の中に、それまでの日常を根底から変えてしまう出来事が紛れ込む主題。事件の大小よりも「その日から何かが違って見える」感覚を描く。
- 語られなかった歴史近しい相手にすら明かされなかった過去が、何かをきっかけに明らかになっていく主題。語らなかった理由そのものが人物像の核心に関わる。