キッチン
- 作者
- 吉本ばなな
- 発表
- 1987年
- 国
- 日本
- 媒体
- 小説
唯一の肉親だった祖母を亡くしたみかげが、田辺雄一とその母えり子の家に居候し、台所を心の拠り所に喪失から回復していく中編。死別の悲しみを柔らかな言葉で掬い上げ、世界数十か国で翻訳された。
1987年に発表されたデビュー作である。血縁を失った者同士が、血縁によらない家族を仮に組み立てて生き延びるという主題を、深刻な語彙を避けた透明な文体で描き、若い読者の圧倒的な支持を得た。悲しみの描写の中心に台所と食事を置き、生活の手触りが人を回復させる過程を具体的に示した点が新しく、喪失からの再生を描く物語の現代的な定型のひとつになった。海外でも広く読まれ続けている。
この作品が使っている物語の型
- 喪失と再生何かを失った人物が、その欠落を抱えたまま新しい生き方を見つけ直すまでを描くテーマ。喪失を「治す」のではなく「連れて歩けるようになる」過程に重心を置くと物語が浅くならない。
- 家族の再定義血縁や戸籍だけでは説明できない結びつきを、家族と呼んでよいのかを問い直すテーマ。既存の家族観からこぼれ落ちる関係に名前を与える試みを描く。
- 料理手を動かし、材料を選び、味を確かめるという具体的な工程を持つモチーフ。台詞で語らせるより、料理の手順そのもので人物の心情や関係性を語れる。