小説の推敲のやり方:何を何周見るか、削る基準、投稿前のチェック

推敲という語は、唐の詩人賈島の故事から来ている。辞典によれば、「僧は推す月下の門」の句について「推す」を「敲く」に改めるべきか悩み、考えこむあまり長官の韓愈の行列にぶつかってしまい、事情を話したところ「敲く」がよいと言われた、という話である。語の意味は「詩文の字句や文章を十分に吟味して練りなおすこと」。

ただし、実際に自分の原稿でやる推敲は、一語をどちらにするかで悩む前の段階に大半の作業がある。場面の順序、視点の乱れ、同じことを二度言っている箇所。ここを片づけないまま語句を磨くと、丁寧に磨かれた読みにくい原稿ができる。以下、順序を追って書く。

一周で全部を直そうとしない

推敲でいちばん効く工夫は、周ごとに見るものを一つに絞ることである。人間は同時に複数の基準で読めない。文の流れを味わいながら誤字を見つけることはできないし、誤字を探しながら構成の破綻に気づくこともできない。一周につき一つだけ見る、と決めるだけで、発見の量が変わる。

四周を勧める。一周目は構造。場面の順序、抜けている場面、要らない場面、そして結末が冒頭に対する答えになっているか。ここで場面を丸ごと消したり足したりする。二周目は視点と時間。焦点人物が場面の途中で入れ替わっていないか、時制が揺れていないか。三周目は文。一文の長さ、同じ語の反復、説明が多すぎる箇所。四周目は表記と誤字で、これは機械的な作業になる。

順序を逆にしない。四周目からやると、あとで消す段落の誤字を丁寧に直すことになる。構造から入り、だんだん細かくしていく。

短編なら一周に一時間から二時間、四周で半日から一日というのが現実的な見積もりになる。長編でこれを一度にやろうとすると破綻するので、章単位で二周目以降を回し、構造の一周目だけは全体を通しで見る、という分け方になる。

各周は別々の日にやるほうがよい。同じ日に四周すると、二周目以降は文章を覚えてしまっていて、読んでいるつもりで思い出しているだけになる。

削る基準を持つ

「迷ったら削れ」という助言は乱暴である。基準がないまま削ると、作品の個性が最初に消える。判断に使える基準を三つ挙げる。

第一に、結末に効かないもの。設定の説明、脇道の挿話、思い入れのある描写。それが最後の場面の意味を変えないなら、削るか一行に縮める候補になる。第二に、二度言っていること。会話で言われたことを地の文で繰り返す、動作で示したことをそのあと説明する、という重複は原稿に必ず入っている。後から書いたほうを消すと、たいてい速くなる。第三に、読者が推測できること。人物が泣いたと書いたあとに「悲しかったのだ」と続ける必要はない。

目標を数字で置くとやりやすい。三周目で全体の一割を削る、と決めておく。五千字なら五百字。ほとんどの原稿でこの程度は無理なく減り、減ったあとのほうが読みやすい。

削りすぎの症状もある。場面と場面のつながりが分からなくなる、人物の感情の変化が急に見える、という状態になったら削りすぎである。そのときは、消したもののうち「読者が推測できないこと」だけを戻す。そのために、削った文は消してしまわず、別のファイルに移しておく。戻すのが簡単だと分かっていると、思い切って削れる。

なお、削る作業と書き足す作業は分けたほうがよい。同じ周で両方をやると、削った分だけ書き足して長さが変わらない、ということが起きる。足りない場面に気づいたら印だけ付けておき、削り終えてからまとめて書き足す。

表記は「揃っていること」で決める

文化庁の文化審議会が令和四年一月七日に建議した「公用文作成の考え方」は、公用文のための資料であって小説の作法書ではない。それでも、表記の判断で迷ったときの拠り所として使える部分がある。

たとえば、一文を短くすること。読点は「、」を用いることを原則とし、横書きでは「,」を用いてもよいこと。読点の打ち方によって意味が変わる場合があるので注意すること。常用漢字表にない漢字については、仮名で書く、意味の通じる常用漢字に置き換える、別の言葉に言い換える、振り仮名を付ける、という対処があること。「?」や「!」は解説・広報等では必要に応じて用いてよいが、符号を用いる場合は文書内で用法を統一し、濫用を避けること。

小説は公用文ではないので、そのまま適用する必要はない。長い一文が効果を生む場面はあるし、当て字や表外漢字が作品の質感を作ることもある。使えるのは、この資料が繰り返している「一つの文書内で統一する」という原則のほうである。

実務としては、自分用の表記ルール表を一枚作るとよい。「事」は「こと」と開く、「〜して行く」は「〜していく」、数字は漢数字、といった具合に、迷った語を決めた端から書き足していく。三点リーダーやダッシュを重ねるかどうかのように、公的な規定がなく慣習で決まっている事柄もある。どちらを採ってもよいが、一作の中では揃える。二作目以降はこの表を使い回せる。

時間を置く、声に出す、人に見せる

自分の原稿は書いた直後がいちばん読めない。頭の中の完成形が目に映って、実際に書かれていない部分まで読めてしまう。

時間を置く。最低でも三日、できれば一週間。この間に次の作品の企画を進めておくと、待ち時間が苦にならない。

声に出して読む。音読は、黙読では素通りする問題を捕まえる。読点の位置がおかしい箇所では息継ぎに困る。同じ語を続けて使っている箇所では耳が引っかかる。一文が長すぎる箇所では、読み終わる前に息が切れる。声を出しにくい環境なら、パソコンやスマートフォンに標準で付いている読み上げ機能で代用できる。機械の平板な読み上げは、かえって不自然な語順を目立たせる。

人に読ませる。ただし聞き方が重要になる。「面白かった?」と聞くと、相手は気を使って「面白かった」と答える。聞くのは事実である。どこで読むのをやめたくなったか。誰の話だと思ったか。話の内容を三行で説明してもらえるか。返ってきた答えが自分の意図とずれていたら、そこが直す場所になる。読者の言う症状は信じ、読者の出す処方箋は疑う、というくらいの扱いが扱いやすい。「この場面を消したほうがいい」という助言そのものより、「この場面で退屈した」という事実のほうが情報量が多い。

誤字脱字を機械的に潰す

誤字脱字は気合いでは減らない。変換ミスの多くはそれ自体が正しい日本語なので、意味を追って読むかぎり目が滑る。読み方を変えるしかない。

ここで押さえておきたいのは、誤字脱字が作品の評価に効く理由である。内容が良ければ誤字くらい許される、というのは半分正しい。だが読者は、誤字にぶつかるたびに物語の外へ一度出る。三行に一度出されると、話が入ってこない。誤字を潰す作業は、文章を上手にする作業ではなく、読者を物語の中に留めておく作業である。

有効な手が四つある。一つ、表示を変える。フォントを変える、一行の幅を変える、縦書きと横書きを入れ替える、紙に印刷する。見た目が変わると、覚えてしまった文章が初見のものに戻る。二つ、末尾の段落から逆順に読む。意味の流れが切れるので、文字そのものを見ることになる。三つ、検索で潰す。自分がよくやる誤変換を一覧にしておき、原稿ごとに検索をかける。同音異義語、人名の表記揺れ、閉じ忘れた鉤括弧。四つ、読み上げ機能に読ませる。

紙に出して直すなら、校正記号を覚えておくと自分の指示を後から読み間違えない。印刷校正記号はJIS Z 8208として規格化されており、一九六五年に制定され二〇〇七年に改正されて、ルビや書式変更の指示記号が追加されている。全部を覚える必要はなく、文字の訂正・挿入・削除・入れ替えの四つで足りる。

投稿する前の最終確認

書き終えて直し終えたら、公開する前に見る項目がある。

まず規約である。小説家になろうは二次創作の投稿を原則禁止としたうえで、条件付きの例外を個別に定めている。著作権の保護期間が終了している作品を原作とした作品、歌詞をモチーフとしてオリジナルの文章で執筆した作品、歴史上の人物を題材とした作品(第二次世界大戦までの人物を目安とし、第二次世界大戦は含む。現在存命中の人物を題材とした作品は禁止)、同サイト内の作品の二次創作(原作の作者から許可を得ていない場合は投稿できない)、非商業作品の二次創作、そして運営が権利者から直接許可を得ている版権作品である。

ここで読み落としやすいのが許可の要否である。非商業作品の二次創作については、権利者が二次創作を認める意思を公開している場合に限られるうえで、投稿する際は必ず権利者から「二次創作の小説家になろうへの投稿について」事前に許可を得ること、と明記されている。公開の許可表明があるだけでは足りず、事前の個別の許可が要る。サイト内作品の二次創作も同じく原作者の許可が前提になる。規約違反は作品の削除につながるので、ここは推測で進めない。

オリジナル作品のつもりでも、既存作品の名前や設定を借りている箇所があるなら確認しておく。投稿先が変われば規定も変わるので、その都度そのサイトのガイドラインを読む。年齢制限の区分も、投稿先の規定に従って設定する。

次に作品の入口である。カクヨムでは、キャッチコピーは三十五文字まで、紹介文は最大一万文字まで入力でき、どちらにもルビや傍点は振れない。上限まで書く必要はない。キャッチコピーは作品の性格が一目で分かる一行、紹介文は誰が何をしようとしている話かが分かる二百字から四百字。ここは本文と同じくらい読まれるので、本文と同じだけ推敲する価値がある。

そのうえで、公開設定・完結の設定・タグやキーワード・話の分割位置を確認する。予約投稿を使うなら日時を確認する。カクヨムの場合、公開日時は年月日と時刻で指定でき、更新頻度を「日ごと」「週間ごと」で登録することもできる。連載を始めるなら、この設定を先に入れておくと更新が止まりにくい。最後に、投稿画面のプレビューで実際の表示を一度読む。手元のエディタでは問題がなくても、ルビや傍点の記号が本文にそのまま出ていたり、空行の入り方が変わっていたりすることがある。

ここからは整理

出典で裏が取れているのは、推敲の語義と故事、公用文作成の考え方の記述、校正記号の規格と改正年、二次創作ガイドラインの条件、各サイトの入力上限と予約投稿の仕様である。四周に分けること、一割削ること、症状と処方箋の扱いを分けることは、当サイトの推奨であって公的な作法ではない。

推敲には終わりがない。いつまでも直せてしまうので、終わりは自分で決めるしかない。四周と決めて四周やったら公開する、という区切り方を勧める。直し足りない部分は残るが、公開して次を書いたほうが上達は速い。最初の一本は、完璧な一本である必要がない。

出典

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