絵コンテの描き方—用紙の欄・カット割り・秒数の見積もり

絵コンテは、絵が上手い人が描くものではない。映像を先に決めてしまうための書類である。バンダイナムコピクチャーズは絵コンテを、どのシーンに何秒かけ、どんな画面を作り、どうセリフを話し、どう動くかを決める「アニメーションの設計図」だという趣旨で説明している。スタジオジブリの制作日誌でも「映画の設計図」と呼ばれ、プロダクションに入る前にスタッフへ配られるものとされている。

つまり絵コンテの目的は、あとの工程で迷わないことにある。一人で作る場合でも同じで、絵コンテが無いまま描き始めると、描いた絵が繋がらないまま増えていく。この記事では用紙の欄の意味から順に、実際に1本分を描き切るところまでを追う。

用紙の欄は何を書く場所か

絵コンテ用紙は、おおむね4〜5列の表になっている。アニログの解説では、記載される情報として S/C(カット番号)、画面(絵)、内容、セリフ、時間(カット尺)の5つが挙げられている。専門学校デジタルアーツ東京の解説でも、カット番号とシーン番号、実際の映像と同じ縦横比で描く画面、登場人物の動きを「ト書き」として書く内容欄、「人物名+『内容』」の形式で書くセリフ欄、カットごとの長さを書く秒数欄、という同じ構成が示されている。

スタジオジブリの制作日誌では、実際の用紙の色分けとして、カット番号の欄、場所や登場人物や監督の意図を書く欄、台詞や音響指示を書く欄、そしてカットの秒数を書く欄が説明されている。書式の細部はスタジオごとに違うが、何を書く場所が要るかは共通していると考えてよい。

各欄の役割を、後工程が何を受け取るかで言い換えるとこうなる。画面欄は作画とレイアウトが受け取る。内容欄は演出意図と芝居の指示として作画が受け取る。セリフ欄は音響とアフレコが受け取る。尺の欄は撮影・編集とタイムシートが受け取る。どの欄も、書かなければ誰かがその場で勝手に決めることになる。一人で作るなら、決めるのは未来の自分だ。

カットとは何か、どこで割るのか

スタジオジブリの資料では、カットは「切れ目のない、ひと続きの映像」と定義され、複数のカットで構成された場面をシーンと呼ぶ、と説明されている。つまりカットを割るとは、画面が切り替わる場所を決めることに他ならない。

では、どこで割るか。ここからは当サイトの整理になるが、初心者が使える判断の目安は3つある。

第一に、見せたいものが変わるとき。人物の表情を見せてから手元を見せるなら、そこで割る。一つの画面に二つの情報を詰め込もうとすると、どちらも伝わらない。

第二に、距離を変えたいとき。引きの画で状況を見せ、寄りの画で反応を見せる。この寄り引きの往復が、映像のリズムの土台になる。

第三に、時間を飛ばしたいとき。歩き出してから到着するまでを全部描く必要はない。歩き出しのカットと、着いたカットを並べれば、間は観客が埋める。カット割りは省略の技術でもある。

逆に、割りすぎにも注意が要る。1カットごとに絵を用意する必要があるので、カット数はそのまま作業量になる。個人制作では、割るたびに自分の仕事が増えると意識しておくとよい。

秒数をどう見積もるか

絵コンテで最も難しいのは絵ではなく尺だ。ここには手がかりになる数字がいくつかある。

スタジオジブリの制作日誌によれば、『ゲド戦記』は約110分で1236カット。単純に割れば1カットあたり平均5秒強になる。これは劇場作品の数字なので万能ではないが、1カットは数秒という感覚をつかむ基準にはなる。

もう一つは秒とコマの関係だ。アニメは1秒24コマを前提に尺を計算する。OpenToonzの公式マニュアルでも、フレームレートは出力先に合わせて設定するものとされ、映画向けの値として24fpsが挙げられている。この前提の上で、絵コンテの尺欄は秒とコマの組み合わせで書かれる。アニログの解説では「1+12」という表記が「1秒12コマ=36コマ」を意味する例として示されている。「秒+コマ」で書くと覚えておけばよい。

秒とコマの対応は、覚えておくと見積もりが速くなる。24コマで1秒、12コマで0.5秒、6コマで0.25秒。人が瞬きをする程度の一瞬が6コマ前後、一言のセリフが1〜2秒、動作が一つ完結して2〜4秒、というあたりが目安になる。逆に、8コマ(3分の1秒)を切るカットは、観客が何が映ったか認識する前に消える。意図してやるなら効果になるが、無自覚にやると単に見落とされる。

実際の見積もり方は、ここからは整理になるが、机上で数えるより身体で測るほうが早い。ストップウォッチを持って、そのカットで起きることを自分で演じてみる。「ドアを開けて中を見る」を実際にやると3秒前後かかると分かる。セリフのあるカットは、そのセリフを声に出して読み、かかった時間に前後の余白を足す。この作業を全カットに対してやると、合計尺が出る。

ここで、合計が想定より長くなるのは普通のことだ。長すぎたときに削るのは尺ではなくカットである。1カットずつ0.5秒短くしても、映像は忙しくなるだけで短くならない。丸ごと要らないカットを探すほうが効く。

セリフと音の欄の使い方

セリフ欄は、後で音響とアフレコが読む場所である。デジタルアーツ東京の解説にあるとおり「人物名+『内容』」の形で書くのが基本で、誰が喋っているかを毎回明示する。ジブリの資料では、この欄には台詞だけでなく音響指示も入ると説明されている。

ここからは整理だが、個人制作でこの欄を活かす書き方が一つある。セリフの無いカットにも、音を書くことだ。「風の音」「足音が止まる」「BGM入る」といった一行を入れておくと、後で音をつける段になって、無音の時間帯を見落とさずに済む。映像は絵が繋がっていても、音が途切れると急に素人くさくなる。それを絵コンテの段階で防いでおく。

逆に、セリフを書きすぎるのもよくある失敗だ。絵で分かることをセリフで説明すると、画面と音が同じことを二重に言う。内容欄に「不安そうに振り返る」と書けているなら、「不安だな……」というセリフは要らない。セリフ欄と内容欄が同じことを言っていないかを、一度通しで確認する価値がある。

カメラワークの指定

画面の中で何が動くかとは別に、カメラ自体が動く指定がある。アニログの解説では、主な記号として次のものが挙げられている。PANはカメラを横に振ること。T.U.(トラックアップ)は対象に近づくこと、T.B.(トラックバック)は遠ざかること。F.I.(フェードイン)は黒から明るくなること、F.O.(フェードアウト)はその逆。O.L.(オーバーラップ)は画面を重ねながら切り替えることを指す。

絵コンテ用紙では、これらを画面欄に矢印や枠で書き込むのが一般的だ。T.U.なら、開始時の画面枠と終了時の画面枠を二重に描いて矢印で結ぶ。PANなら、横に長い絵を描いて、その上を画面枠が移動する形で示す。

ここからは整理だが、初心者はカメラワークを付けすぎる傾向がある。動かす理由が言葉にできないなら、止めたほうがいい。カメラが動く理由は「見せたいものが移動したから」か「時間の経過を感じさせたいから」のどちらかに絞ると、画面が落ち着く。特に、キャラクターが動かないカットでカメラだけを動かすと、作業量の割に何も伝わらないことが多い。

1本目は何カットにするか

ここからは当サイトの整理である。最初の1本の規模は、絵コンテを描く前に決めておく。

『ゲド戦記』の平均が1カット5秒強という数字をそのまま借りると、1分の作品はおよそ10〜12カットになる。これは一人で描き切れる量として現実的な線だ。逆に、30カットを超える絵コンテを1本目に描くと、その時点では楽しく描けても、作画に入ってから終わらない。

カット数を先に決めてしまう方法も有効だ。「10カットで1本」と決め、10個の枠を先に用意してから中身を考える。枠が足りなければ話のほうを削る。この順序だと、話が膨らんで工数が爆発する事故を構造的に防げる。

なお、カットの長さは均等でなくてよい。むしろ均等だと単調になる。短いカットを続けて緊張を作り、長いカットで受ける、といった配分は、絵コンテ上で秒数を眺めるだけでも設計できる。尺の欄を縦に読んで、同じ数字ばかり並んでいないかを見る癖をつけておくとよい。

描く順番と、止まったときの抜け方

実際の描き方の手順として、デジタルアーツ東京の解説では、フォーマットを準備し、テキスト情報を書き、秒数を決め、番号を振り、合計時間とページ番号を書く、という5段階が示されている。

これを個人制作向けに補うと、次の順が扱いやすい。まずセリフと内容だけを先に全部書く。絵はまだ描かない。次に、各カットの尺を仮で入れて合計を出す。ここで長すぎれば、絵を描く前にカットを削れる。それから絵を入れる。最後にカメラワークと音の指示を足す。

止まりどころは決まっている。画面が思いつかないカットが必ず出る。そのときは、そのカットで観客に何を分からせたいのかを内容欄に文章で書く。文章で書けないなら、そのカットは要らない可能性が高い。文章で書けるなら、その文章を絵にする方法は複数あるので、一番簡単な構図を選べばよい。

もう一つは、絵が下手で読めないのが恥ずかしくて手が止まる場合。絵コンテの絵は上手さを要求されない。棒人間と矢印で十分に機能する。ジブリの資料が示すとおり、絵コンテが伝えるのは「どこで、誰が、何をしているか」であって、絵柄ではない。1本目は棒人間で通しきることを勧める。全カットが並んだ絵コンテが1冊あるだけで、そのあとの作業は「表を埋める」に変わる。

出典

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