アニメの音のつけ方—声・効果音・音楽の順番と、素材の権利の読み方
絵が全部できたのに、再生してみると何かが足りない。その「何か」はたいてい音である。無音の映像は、絵の完成度に関係なく素人くさく見える。逆に、絵の枚数が少なくても、音が丁寧に入っていれば作品として成立する。個人制作において、音は最も費用対効果の高い工程だと言ってよい。
この記事では、音を3種類に分けて役割を確認し、作業の順番を決め、素材の権利の読み方と書き出し設定までを扱う。
音は3種類に分かれる
映像につく音は、セリフ、効果音(SE)、音楽(BGM) の3つに分かれる。分業の現場でも、この3つは別々の担当が作る。日本音声製作者連盟が公開しているアニメ音響制作の流れでは、セリフはアフレコで声優が映像に合わせて演技し、ミキサーが録音する。音楽は音楽打ち合わせの段階で作曲家に発注され、後の音楽チェックで映像に合わせて選曲される。効果音はSE打ち合わせで音響監督と音響効果が相談して決める。
それぞれが担うものは違う。ここからは整理になるが、次のように分けて考えると迷いにくい。
セリフは情報を伝える。誰が何を考えているかを直接渡す。
効果音は画面の中に存在する物を実在させる。ドアが閉まる音、足音、衣擦れ。これが無いと、絵は絵のままで、空間にならない。
音楽は観客の感情を方向づける。同じ映像でも、BGM次第で悲劇にも喜劇にもなる。裏を返せば、音楽で感情を指定しすぎると、絵で作った感情が上書きされる。BGMを最初から最後まで敷き詰めるのは、初心者がやりがちな失敗の一つだ。無音の時間が怖くて埋めてしまうのだが、無音は効果音を際立たせるための資源でもある。
作業の順番
分業の現場では、映像がある程度できてからアフレコをおこない、音楽と効果音を用意し、最後にダビングでセリフ・音楽・効果音のバランスを取ってミックスする、という順で進む。日本音声製作者連盟の資料でも、アフレコ、音楽チェック、SE打ち合わせ、仕込み、ダビング、納品という並びが示されている。
個人制作でもこの順序は流用できる。整理すると次のようになる。
- 映像を仮でつないで固定する。 尺が変わると音の位置がすべてずれるので、音をつける前に映像の長さを確定させる。ここを守らないと、あとで全部やり直すことになる。
- セリフを録る。映像を見ながら演じて録音する。この時点では音量調整をしない。
- 効果音を入れる。画面の中で起きていることに音を当てる。足音、物音、環境音の順に足していく。
- 音楽を入れる。最後に入れると、音楽で埋めなくても成り立っている場所が分かる。
- バランスを取る。 全部を同時に鳴らして、セリフが聞こえるかを基準に音量を調整する。
「録る」と「混ぜる」を分けるのが要点である。録音時に音量を下げてしまうと、後で上げても質は戻らない。録音は歪まない範囲でできるだけ大きく録り、バランスは編集で取る。
映像と音を合わせる
音を映像の切り替わりや動きに合わせることを、俗に「音ハメ」と呼ぶ。ここは当サイトの整理になるが、初心者が押さえるべき点は3つある。
効果音は、絵に合わせるのを基準にする。手前に置かない。 音を早める方向へ「気持ち先に」ズラす手癖は、避けたほうがよい。国際電気通信連合の勧告 ITU-R BT.1359-1 は、音と映像のズレについて「detectability thresholds are about +45 ms to –125 ms」(正の値は音が映像より先行していることを示す)としている。つまり人の耳は、音が先行する方向には約45ミリ秒でズレに気づき、音が遅れる方向には約125ミリ秒まで気づきにくい。先行方向のほうが3倍近く厳しい。24fpsでは1フレームが約42ミリ秒なので、2〜3フレーム手前に置いた時点で、多くの人が「音が早い」と分かる領域に入る。ズラすとしても、遅らせる側に1フレーム程度までにとどめる。
カットの切り替えと音の切り替えをずらす。常に同時に切り替えると、映像が刻んで見える。音を先に変えてから絵を切る、あるいはその逆をやると、繋がりが滑らかになる。
BGMの区切りとカットの区切りは、要所だけ合わせる。全部合わせるとミュージックビデオになる。「ここで決める」という1〜2か所だけ合わせると効く。
セリフと口の動きについては、個人制作なら先にセリフを録って、その長さに合わせて口パクを作るほうが圧倒的に楽だ。プロの現場は逆(映像に声を合わせる)だが、一人でやるなら音を先に固定してよい。
素材の権利をどう読むか
ここが一番、誤ると実害が出るところだ。「フリー素材」という言葉に共通の定義は無い。無料という意味のこともあれば、著作権を放棄しているという意味で使われることもあり、実際にはサイトごと・素材ごとに条件が違う。使う前に、その素材の利用規約を必ず自分で読むこと。以下は規約の読み方であって、特定の素材が使えるという保証ではない。
規約を読むときに確認すべき点は4つある。
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商用利用が可能か。広告収入のある動画投稿、有料頒布、企業案件などが該当しうる。何を商用とみなすかは規約ごとに違うので、自分の用途を具体的に当てはめて読む。たとえばDOVA-SYNDROMEのヘルプでは、営利・非営利を問わず利用でき、法人利用やテレビCM、販売製品への使用も可能とされている。効果音ラボの利用規約でも、個人・法人・公的機関を問わず商用利用が無料と明記されている。
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クレジット表記が必要か。必須・任意・不要の3通りがある。DOVA-SYNDROMEのヘルプではクレジット表記は必須ではないが可能な限り記載してほしいという立場が示されており、効果音ラボでは報告・リンク・クレジット表記は不要(禁止ではなく任意)とされている。必須の素材を無表記で使うと規約違反になるので、素材ごとに控えておく。
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改変・加工が可能か。音の長さを詰める、ループさせる、エフェクトをかける、といった加工が許されているかを見る。DOVA-SYNDROMEのヘルプでは、ファイル形式の変換、エフェクト、イントロカットやループ編集など作品に合わせた加工は可能だが、元の音源から著しく乖離する加工は不可とされている。効果音ラボでは改変・編集は可能だが、改変したものを再配布することは禁止されている。
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禁止用途に当たらないか。ここを読み飛ばす人が多い。効果音ラボの利用規約では、素材そのものの再配布・販売、アダルト作品や公序良俗に反する作品での利用、AI学習用データとしての利用、効果音ファイルへの直リンクなどが禁止されている。DOVA-SYNDROMEでは、音源そのものを主コンテンツとする利用(作業用BGM動画など)が禁止されている。
もう一つ落とし穴がある。サイト全体の規約とは別に、素材ごとの個別条件がある場合だ。DOVA-SYNDROMEのヘルプには、作曲・制作者が別途利用条件を設けていることがあり、その場合は作曲・制作者の条件が優先されると書かれている。サイトの規約を読んで安心せず、ダウンロードページに個別の記載が無いかを見る。
海外の素材でよく見るクリエイティブ・コモンズ(CC)ライセンスも、記号の意味を押さえておくと読める。クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの説明によれば、条件は4つある。BY(表示)はクレジットを表示すること、NC(非営利)は営利目的で利用しないこと、ND(改変禁止)は元の作品を改変しないこと、SA(継承)は元と同じ組み合わせのCCライセンスで公開すること。これらの組み合わせで6種類のライセンスができている。映像に組み込んで使う場合、NDが付いていると扱いが難しく、SAが付いていると自分の作品側の公開条件に影響が及びうる。この2つは特に注意して読む。
なお、ここに書いたのは各サイトの規約を読んだ時点の内容であり、規約は改定される。判断の根拠は常に、使う時点の公式規約にある。
規約とは別に、投稿先の自動検出がある
規約を守って使ったのに、投稿した動画に著作権の申し立てが付く——これは実際に起きる。規約上の可否と、投稿プラットフォーム側の自動検出は別の層の話だからだ。 YouTubeヘルプの説明によれば、Content IDは「アップロードされた動画が別の動画(または別の動画の一部)と一致することが YouTube の Content ID システムにより検出された場合」に自動で申し立てを生成する仕組みで、権利者の設定によって動画のブロック、収益化(第三者が広告収入を得る)、再生統計のトラッキングのいずれかがおこなわれる(Content ID の申し立ての詳細)。
つまり申し立ては、人が権利侵害を判断して出すものではなく、音の一致を機械が検出して自動で生成される。規約どおりに使っていても、その素材が何らかの形でContent IDに登録されていれば一致は起こりうる。申し立てが付いたこと自体は、自分が規約違反をした証拠ではない。
同ヘルプでは、申し立てが無効だと思われ、申し立てを受けたコンテンツを使用するために必要な権利をすべて所有していると確信できる場合には、異議を申し立てられるとされている。ここからは整理だが、実務的には次の2つをやっておくと落ち着く。素材の配布元に、Content IDへの登録状況や申し立てが出た場合の案内が書かれていないか先に見ること。そして、どの素材をどこから入手したかを、URLと入手日を添えて手元に控えておくこと。異議を出すときに必要になるのは、この記録である。
録音と編集の道具
音の編集には無料の選択肢がある。Audacity は公式サイトでマルチトラックのオーディオエディタ兼レコーダーとして紹介されており、Windows・macOS・Linuxに対応、GNU General Public License Version 3のもとで公開された無料のソフトである。録音、ノイズ低減、コンプレッサー、速度・ピッチ調整といった機能を備え、WAV・MP3・FLAC・Oggなどの形式で書き出せる。セリフを録って整える用途には十分だ。
録音環境について、ここからは整理である。専用のマイクが無くても始められるが、部屋の反響だけは対処したほうがいい。声が響く部屋で録ると、後から取り除くのは難しい。布団やカーテンの近くで録る、クローゼットの中で録る、といった対処で目に見えて改善する。ノイズ低減はあくまで補助で、録り直せるなら録り直したほうが早い。
書き出しの設定
最後に映像として書き出すとき、音の設定も決めることになる。投稿先の推奨値に合わせるのが確実だ。YouTubeヘルプの「推奨されるアップロード動画のエンコード設定」では、コンテナはMP4、音声コーデックはAAC-LCなど、サンプルレートは48kHz、音声ビットレートはステレオで384kbps、モノラルで128kbps、5.1で512kbpsが示されている。映像側は、コーデックがH.264、フレームレートは24・25・30・48・50・60fpsが一般的とされ、1080pの推奨ビットレートは標準フレームレートで8Mbpsとされている。
作業中の音声ファイルは、圧縮していない形式(WAVなど)で持っておき、圧縮するのは最終書き出しの1回だけにする。MP3で編集してMP3で書き出すと、劣化が二重にかかる。サンプルレートも、制作の最初から書き出し先に合わせて48kHzで統一しておくと、途中で変換が挟まらずに済む。
音は、絵と違って「一度作れば直せる」性質を持っている。バランスが気に入らなければ、音量を数デシベル動かすだけで印象が変わる。絵の描き直しに比べれば圧倒的に軽い作業なので、最後の1日を音の調整にあてるだけで、作品の見え方はかなり変わる。