一人でアニメを作る方法—尺・枚数・道具と、完成させるための割り切り

一人でアニメを作るとき、才能や画力より先に問題になるのは規模の設定である。作りたいものは3分あるのに、一人で完走できる量が1分だとしたら、その3分は永久に完成しない。この記事では、最初の1本をどこに置くか、どの工程を省けるか、何で作るかを順に決めていく。

最初の1本の規模を決める

ここからは当サイトの整理である。個人制作の第1作としては、30秒から1分を勧める。理由は工数ではなく、飽きるまでの時間だ。

作画の枚数は逆算できる。3コマ打ち(1枚を3コマ表示、秒間8枚)で全編を動かし続けたとして、1分は480枚になる。これは一人には多い。ただし、実際のアニメでも全カットが動き続けているわけではない。止め絵のカット、口だけが動くカット、絵は1枚で背景がスライドするだけのカットを混ぜれば、この数字は大きく下がる。

現実的な組み方は、動かすカットを最初に選んでしまうことだ。1分・10カットの構成なら、しっかり動かすのは2カットまで。残り8カットは止め絵とカメラワーク、口パク、簡単な繰り返し(風で髪が揺れる程度)で持たせる。この配分なら総枚数は百数十枚に収まり、一人でも到達できる。

尺を欲張ると、たいてい最後の仕上げ工程で力尽きる。30秒の完成品は、3分の未完成品より価値がある。1本目は「完成させた経験」を取りに行くと割り切ってよい。

省ける工程、省けない工程

分業を前提にした工程のうち、一人なら省略・統合できるものがある。

省けるのは、他人に渡すための書類だ。色指定表、作画監督への修正指示、進行管理表といったものは、渡す相手がいなければ簡略化してよい。レイアウトも、絵コンテを実際の画面比率で丁寧に描けば兼ねられる。原画と動画の分離も、通しで自分が描くなら分けなくてよい。

省けないのは、絵コンテ、撮影(合成)、編集、音である。特に絵コンテは、一人だからこそ要る。渡す相手がいないから省く、という発想になりがちだが、絵コンテが無いと自分が次に何を描けばいいか分からなくなる。カット数が数えられないと進捗も測れない。

もう一つ、省けないのに軽視されやすいのが素材の管理だ。カット番号でフォルダを切り、絵・背景・音を同じ番号でそろえる。個人制作の事故で多いのは、描いた絵をどこに置いたか分からなくなることと、書き出したファイルを上書きしてしまうことである。命名規則を最初に決めておく。

無料で使えるソフト

各ソフトの現況を公式サイトで確認したうえで挙げる。価格や仕様は変わるので、導入前には必ず公式を見ること。

Krita は無料のオープンソースのペイントソフトで、公式サイトでは “professional FREE and open source painting program”、ライセンスはGNU GPLと明記されている。フレーム単位のアニメーション機能を備え、公式マニュアルでは初心者向けに12フレーム毎秒が推奨されている。オニオンスキン(前後のフレームを赤と緑で重ねて表示する機能)もあり、中割りを描くときの基準になる。作画から入るなら最初の候補になる。

OpenToonz は2Dアニメーション制作用のソフトで、公式サイトによればイタリアのDigital Video社のToonzを基に、スタジオジブリがカスタマイズして使ってきたものをドワンゴ協力のもとオープンソース化したもの。New BSD Licenseで公開され、商用・非商用を問わず無料で使える。タイムシート(Xsheet)を中心に据えた作りなので、コマ打ちや表示時間の管理をきちんとやりたい場合に向く。学習コストは高めだ。

Pencil2D(公式サイト)はより軽量な2D手描きアニメーション用ソフトで、公式サイトには商用利用も含めて無料と書かれている。Windows・macOS・Linux・FreeBSDに対応。機能は絞られているが、最初の数秒を動かしてみる用途には十分だ。

Blender は無料のオープンソース3D制作ソフト。公式サイトではGNU GPLのもとで公開され、商用・教育用途を含めどんな目的にも自由に使えると明記されている。公式の機能一覧には、3D空間の中で2Dの絵を描く Grease Pencil、アニメーションとリギング、そして基本的な動画編集機能(Video Editor)が挙げられている。1本のソフトで作画から編集まで通せる可能性はあるが、機能が広い分、最初の1本の道具としては重い。3Dを使う予定が無いなら急いで手を出す必要はない。

AviUtl ExEdit2 は日本語圏で長く使われている動画編集ツールの後継版で、公式配布ページで無料のフリーソフトと明記されている。2026年8月22日時点の最新版はversion 2.1.6a。複数の映像・画像・テキストを任意の位置に配置し、加工してファイルに出力するツールとして説明されている。

ただし動作要件は軽くない。公式ページには「Win10以降、DirectX11.3、AVX2が利用出来る環境が必要です。GPUによっては動作しないかもです。」と書かれている。Windows専用であり、古いPCでは動かない可能性がある。導入前に自分の環境がこの3条件を満たすか確認すること。また、これは従来のAviUtl(1.x系)とは別のプログラムとして配布されているもので、公式ページには旧版向けプラグインの互換性についての記載が無い。ネット上に蓄積された旧AviUtl用の拡張機能がそのまま使える前提で選ばないほうがよい。

DaVinci Resolve は無料版のある映像編集ソフトで、Blackmagic Designの公式ページによれば、編集(Edit/Cut)、カラーコレクション(Color)、合成とモーショングラフィックス(Fusion)、音声のポストプロダクション(Fairlight)が一つのアプリに統合されている。無料版はUltra HD(3840×2160)まで、60fpsまでの8-bitフォーマットに対応する。有償のStudio版は120fpsまでの10-bitと4Kを超える解像度に対応し、AIを使った機能やResolveFXが増える、と同ページに書かれている。ただし項目別の比較表があるわけではなく、両者の説明が別々に載っているだけなので、細部が知りたい場合は公式ページを通して読むことになる。撮影(合成)・編集・音の後半工程をまとめて1本で引き受けられるのは、個人制作では大きい。

有料ソフトを使う場合の注意点も一つ挙げておく。CLIP STUDIO PAINT のPRO/DEBUTでは、公式サポートによれば 24フレームを超えるアニメーションは制作できない(1秒8フレーム設定なら3秒まで)。24フレームを超えるファイルを開いた場合は読み取り専用になる。長い尺を作るならEXが要る。買ってから気づくと痛いので、購入前に確認しておきたい。

組み合わせ方

ここからは整理である。道具は一つに絞らず、工程ごとに分けたほうが結果的に楽になる。よくある構成は次の2通りだ。

一つは、作画をペイントソフト(Kritaや使い慣れたもの)で連番画像として書き出し、編集ソフト(DaVinci ResolveやAviUtl ExEdit2)で並べて音をつける構成。学習コストが低く、絵を描くことに慣れている人向き。Kritaの公式マニュアルにも、フレーム連番画像として出力し動画編集ソフトで合成・編集する流れが記載されている。

もう一つは、OpenToonzでタイムシートまで管理し、書き出したものを編集ソフトで仕上げる構成。カット数が多い、レイヤーが複雑、といった作品ならこちらが向く。

どちらの場合も、編集ソフトは必ず1本要る。作画ソフトだけで完結させようとすると、音をつける段で行き詰まる。

音と書き出しの置き場所

道具の話でもう一つ抜けがちなのが音である。録音と音の編集は、映像編集ソフトの中でもある程度できるが、セリフを録って整える作業は専用のソフトのほうが早い。無料のものでは Audacity がある(音の扱いは別記事で扱う)。

そして最後の書き出しは、どの構成を選んでも編集ソフトの担当になる。ここで初めて「解像度」「フレームレート」「コーデック」といった設定に向き合うことになるので、作り始める前に出力先(投稿サイトなど)の推奨設定を一度確認しておくとよい。制作の途中で解像度を変えると、それまでの素材を作り直すことになる。1920×1080・24fps あたりを最初に決め打ちしておけば、少なくとも作業中に揺れることはない。

完成させるための割り切り

最後に、完成率に直結する判断をいくつか挙げる。ここは当サイトの整理である。

キャラクターのデザインを簡略化する。髪の毛の房、服の皺、装飾は、動かす枚数だけ描くことになる。1本目は、線の少ないデザインにする。これは手抜きではなく設計だ。動かすことを前提にデザインを決めるのは、実際の現場でもやっていることである。

色数を減らす。塗りの工程は枚数分だけ発生する。影を1段だけにする、あるいは影を付けない設計にする。全カットで色のルールが揃っていれば、影が無くても画面は成立する。

作業の順番を「全カット同時進行」にしない。 カット1を最後まで仕上げてからカット2に移ると、途中で絵柄が変わる。工程ごとに全カットを横断するほうが揃う。全カットのラフ→全カットの清書→全カットの彩色、という順に進める。

未完成のまま公開する日を決めておく。期限が無い個人制作は、際限なく直せてしまう。公開日を先に決め、その日に間に合う範囲で仕上げる。間に合わなかった部分は、次の作品の課題に回す。

途中で飽きたら、順番を入れ替える。作画に飽きたら背景、背景に飽きたら音、というように工程を切り替える。一人制作の利点は、この切り替えが自由なことにある。同じ作業を続けられないのは意志の問題ではなく、単に長すぎるからだ。

1本目で身につくのは画力ではなく、自分がどれくらいの量なら終わらせられるかという実測値である。それが分かれば2本目の規模設定は正確になる。まずは短いものを1本、最後まで通すことを勧める。

出典

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