アニメができるまでの工程—企画から音響までの全体像

アニメを作ってみたいと思ったとき、最初に困るのは「何から手をつけるか」ではなく「そもそも何をどれだけやれば1本になるのか」が見えないことだ。絵を描く工程だけを想像していると、実際には絵を描き終えてからやることが半分近く残っていることに気づかず、途中で止まる。

この記事では、制作会社が公開している工程表をもとに、アニメが完成するまでに通る道を順に並べる。個々の工程の技術(絵コンテの描き方、コマ打ちの決め方、音のつけ方)は別記事にまわし、ここでは全体の地図だけを描く。

工程は11段階に分かれ、一部は並行して走る

バンダイナムコピクチャーズは自社サイトで制作工程を11段階として公開している。順に、企画、シナリオ、絵コンテ、レイアウト、原画、動画、仕上げ、背景、撮影、ポストプロダクション、完成である。

日本アニメーター・演出協会が厚生労働省の検討会に提出した資料でも、アニメ制作は「大別して①プリプロダクション、②プロダクション及び③ポストプロダクションの3つに分類できる」とされ、プリプロダクションに企画・シナリオ・設定・絵コンテ、プロダクションにレイアウト・原画・動画・スキャン・仕上げ・背景・CG・撮影、ポストプロダクションに撮影素材チェック・編集・音響製作・MIXダビングが置かれている。呼び方の粒度は違うが、通る順序は同じだと考えてよい。

この並びを見て最初に気づいてほしいのは、絵を描く工程が真ん中にしかないことだ。前半は紙とテキストで映像を決める作業、後半は出来た絵を映像として成立させる作業になっている。個人制作で「絵は描けたのに動画にならない」と詰まるのは、たいてい後半の存在を計算に入れていないためだ。

もう一つ、工程表からは読み取りにくいが実作業を左右する性質がある。前の工程が終わらないと次に進めない部分と、並行して走らせられる部分が混ざっていることだ。

絵コンテが上がらないとレイアウトは切れない。レイアウトが決まらないと背景は描けない。この筋は直列で、追い越せない。一方、背景と作画、音楽の作曲とアフレコ準備は並行して進む。日本音声製作者連盟の資料でも、音楽の発注は映像の完成を待たず、音楽打ち合わせの段階で作曲家に出されている。

これは個人制作でも同じ形で効いてくる。絵コンテが出来ていれば、その日の気分に応じて「今日は背景を1枚」「今日はキャラを1カット」と選べる。逆に絵コンテが無いと、常に「次に何を描けばいいか」を考える負荷がかかり続ける。設計を先に済ませておくことは、才能の問題ではなく、後で自分の気力を節約するための手当てだと考えたほうがいい。

前半:紙の上で映像を決める

企画では、作品内容だけでなく、予算・スケジュール・スタッフ構成まで決まる。個人制作に置き換えるなら「何分のものを、いつまでに、どの道具で作るか」を先に決める段階にあたる。ここを飛ばすと、後で尺が膨らんで終わらなくなる。

**シナリオ(脚本)**は、場面の情景・登場人物の行動・セリフを文章に落とし込む工程。まだ絵は無い。ここで話の骨が通っていないものを絵コンテに持ち込むと、絵の力で誤魔化そうとして工数だけが増える。

絵コンテは、どのシーンに何秒かけ、どんな画面を作り、どうセリフを話し、どう動くかを定めるもの——バンダイナムコピクチャーズの言い方を借りれば「アニメーションの設計図」にあたる。スタジオジブリの制作日誌では絵コンテが「映画の設計図」と呼ばれ、プロダクションに入る前にスタッフへ配られると説明されている。同じ資料によれば、『ゲド戦記』は約110分で1236カット。単純に割れば1カットあたり平均5秒強になる。1カットは数秒という感覚は、尺の見積もりを立てるときの基準として覚えておく価値がある。

中盤:絵を作る

レイアウトは各画面ごとの設計図で、絵コンテの小さな絵を、実際の画面サイズ・構図・キャラクターの配置として起こしなおす作業にあたる。背景と作画が同じ空間を共有できるのは、ここで座標が確定するからだ。

原画はキャラクターの芝居やアクションの要となる絵にあたる。厚生労働省の検討会に出された前掲資料では、原画は「絵コンテに沿って画面を設計し、演出が要求する動きや演技を絵に描いていく作業を担当」、動画は「原画をクリーンアップするとともに、原画と原画の間をつなぐ画(動画・中割り)を加えていく作業を担当」と説明されている。動きの設計は原画側の仕事で、動画側はその設計を線として実現する。

仕上げは、色彩設定で定められた色に彩色していく工程。色を「その場のノリ」で決めないために、先に色彩設計という役職がキャラクターの色を決め込む。東映アニメーションの採用サイトは職種の紹介として、色彩設計が作品の雰囲気や世界観、監督のイメージなど全体のバランスを考えながらキャラクターの色を決め込む役職だと説明している。

背景はキャラクターの後ろの空間を描く工程で、作画とは別のセクションとして走る。この二つが並行して進むという構造は、個人制作でも有効に働く。キャラの動きに詰まった日は背景を進める、という逃げ道が作れる。

後半:映像にする

撮影は、彩色済みの動画・背景・CGを組み合わせて映像にする工程だ。東放学園の解説では、素材を合成して映像化したうえで、さらに特殊効果(エフェクト)を加えたり画の質感を調整したりする、と説明されている。名前に反してカメラで撮る作業ではなく、現在はデジタル合成の工程だと理解してよい。光や影、ボケ、色味の最終調整はここで乗る。絵が同じでも、この工程の有無で完成度の印象はかなり変わる。

撮影の前段では、素材が揃っているかの点検も要る。1カット分の素材とは、彩色済みの動画一式、背景、そしてそれらをどのタイミングで表示するかの指示(タイムシート)である。どれか一つ欠けると合成できない。分業の現場ではここを進行職が見ているが、個人制作では自分で管理することになるので、カットごとに素材の有無を一覧にしておくと事故が減る。

編集は、バラバラに上がってくる場面を順につなぎ、カットとカットの間の不要な部分を整理して1本にまとめる作業。絵コンテで決めた尺は、実際につないでみると長すぎたり短すぎたりする。ここで詰める前提で作られている。

音をつける

音は最後にまとめて足すのではなく、映像と並行して準備が進む。日本音声製作者連盟が公開しているアニメ音響制作の流れでは、音響制作会社が受注してから音響監督を決め、キャスティング、スタジオとミキサーの決定、音楽打ち合わせ(作曲家への発注)、アフレコ台本の発注、アフレコ、音楽チェック(選曲)、効果音の打ち合わせ、仕込み、ダビング、納品という順に進む。

東放学園の説明では、アフレコは声優が映像に合わせてセリフを吹き込む作業で、その裏で音楽や効果音も作られている。ダビングは、アフレコした声・BGM・効果音を映像に合わせてはめ込み、バランスを取ってミックスする工程だ。つまり「録る」と「混ぜる」は別工程として分かれている。個人制作でもこの分離は守ったほうがよい。録りながら音量を調整しようとすると、後で直せなくなる。

誰が何を決めているのか

工程表だけ見ると流れ作業に見えるが、実際には各工程に決める人が置かれている。監督・演出が絵コンテで映像を決め、作画監督が原画の絵柄と芝居を揃え、色彩設計が色を決め、美術監督が背景の画面を決め、音響監督が音を決める。東映アニメーションの採用サイトが挙げている職種では、演出助手が原画・動画・彩色・背景・撮影の各セクションを回ってミスが無いか確認する役割とされ、進行職(制作進行・美術進行・仕上進行・CG進行)がスケジュールと進捗を管理するとされている。

ここからは整理になるが、個人制作ではこの「決める人」を全部自分が兼ねることになる。問題は工数ではなく、判断の基準が場当たりになることだ。色を毎カット気分で選べば画面が揃わない。だから個人でも、色や画面のルールは制作前に一度紙に書いて固定しておくほうが結果的に早い。

個人制作では、この表はどこまで縮むか

ここからは当サイトの整理である。11工程のうち、一人で作るときに省けるものと省けないものは分かれる。

省けるのは分業のための工程だ。台本の印刷、進行管理、色指定表の作成といった「他人に渡すための書類」は、渡す相手がいなければ簡略化できる。レイアウトも、絵コンテを画面サイズで丁寧に描けば兼ねられる。原画と動画の分離も、自分一人なら通しで描いてしまってよい。

一方で省けないのは、企画(尺と締切を決める)、絵コンテ(映像の設計)、撮影・編集(素材を映像にする)、そして音である。特に絵コンテを省くと、描いた絵が繋がらないまま増えていく。絵コンテだけは、どんなに短い作品でも先に描くことを勧める。

初心者が止まる場所と、その抜け方

ここも当サイトの整理である。工程表を知っただけでは止まる場所は減らないので、実際に詰まりやすい4か所を挙げておく。

後半工程を見積もりに入れていない。 絵が全部上がってから「合成と編集と音で、まだ何日かかかる」と気づくと気力が切れる。絵を描く時間と同じくらいの時間を、撮影・編集・音のために最初から確保しておく。1分の作品なら、絵に2週間かけるつもりなら仕上げ以降にもう1〜2週間見る、という取り方でよい。

絵コンテを飛ばして描き始める。一番よく起きる止まり方がこれだ。描いた絵が繋がらないまま増え、どこまで進んだか分からなくなる。棒人間でいいので、全カットを先に並べる。カット数が数えられるようになるだけで、進捗が%で見えるようになる。

工程の途中で品質を上げにいく。 原画の段階で線を綺麗にし始める、彩色の段階で色を作り直し始める、といった行き来は、完成を確実に遠ざける。各工程は「次の工程が困らない状態」まで作って渡すのが目的だと割り切る。渡す相手が自分自身でも同じだ。

一度に全部を進めようとする。工程が11個あるということは、区切りが11個あるということでもある。「今日は絵コンテの3ページ目まで」のように、工程と量で区切ると終わりが見える。時間で区切ると、進んだかどうかが分からないまま疲れる。

各工程の具体的なやり方は、絵コンテ・作画のタイミング・個人制作・音の4本に分けて別に書いている。まずはこの地図の上で、自分がいまどこにいるかを見失わないことが先だ。

出典

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