縦読み漫画の作り方:横読みとの構造的な違いから始める
縦読み漫画(webtoon、タテスク)は、横読みの漫画を縦に並べ直したものではない。読者の持っている装置がスマートフォンに固定され、読む動作がめくりからスクロールに変わった時点で、演出の道具立てが入れ替わっている。ここを理解しないまま横読みの感覚で作ると、読みづらいものができあがる。
この記事では、まず構造の違いを押さえ、次に投稿先が定めている実際の数値、1話の分量、カラー前提の作り方、そして分業の実態を順に見る。横読みのコマ割りについては別記事「コマ割りと構図」を参照してほしい。
何が構造的に違うのか
違いは4つに集約できる。
第一に、画面が固定されている。横読みは見開き2ページが一度に目に入るが、縦読みではスマートフォンの画面1つ分しか見えない。読者が同時に見られる範囲が、常に一定の面積に制限される。
第二に、先が見えない。横読みでは、ページを開いた瞬間に下のコマが視界の端に入ってしまう。縦読みではスクロールするまで次が見えないので、情報の出し方を作り手が完全に制御できる。
第三に、進行が連続している。ページという単位がないため、めくりという区切りも存在しない。代わりに、スクロールの速度と余白の長さが時間の単位になる。
第四に、カラーが前提である。紙の印刷という制約がないので、モノクロにする理由がそもそもない。
この4つから、縦読みの基本原則が導ける。マンガラボ!の解説では、スマートフォンの1画面に収まるのは1コマから最大3コマ程度、フキダシの中は最大3行程度が読みやすい、とされている。1画面=1つの出来事、と考えるのが出発点になる。
キャンバスの幅と高さは、投稿先の規定で決まる
ここは数値を間違えると実害が出るところなので、投稿先の公式規定を挙げる。
comico の公式「マンガ制作物ガイドライン」では、原稿の推奨サイズを「横800px 縦〜10,000px」、形式を JPG または PNG、容量を1枚あたり〜2MB・1話あたり〜20MB、枚数を1話〜100枚としている。横幅が大きい場合はアプリ掲載時に自動的にリサイズされるとの注記もある。
ジャンプルーキー!のヘルプでは、画像形式は JPEG と PNG、推奨サイズは横800px、上限は横幅1200px以下・高さ20000px以下、一度にアップロードできる容量は200MB、1話につき200枚までとされている。アプリ版は縦読み専用で、WEB版で横読み設定にしてもアプリ側では縦読みに統一される旨も書かれている。
CLIP STUDIO の解説記事は、LINEマンガインディーズの推奨幅を800px(幅400〜10000px、縦600〜10000px、1000枚まで)、comicoチャレンジを横690px・縦〜20,000px・1話1〜100枚として紹介している。同記事自体は制作ソフト側の解説であり、幅690pxを推奨キャンバスの例としても挙げている。
まとめると、幅は690pxか800pxのどちらかに揃っているが、1枚あたりの高さの上限は10,000pxと20,000pxに分かれる。上に挙げた3件でいえば、comico が縦〜10,000px、ジャンプルーキー!が高さ20000px以下、comicoチャレンジが縦〜20,000pxである。枚数上限(100枚・200枚・1000枚)と容量上限も同様にサイト間で数倍の開きがある。出す先が決まっているなら必ずそのサイトの公式ガイドラインを開いて確認すること。ここに挙げた数値も、いつ変わってもおかしくない。
制作時の解像度について、マンガラボ!は書き出しサイズの最低2倍程度で描くことを勧めている。幅800pxで出すなら1600px以上で作る、という意味だ。縮小して出すぶんには劣化しないが、拡大はできない。作業用の原寸は、書き出しサイズより大きく取る。
1話の分量
コマ数で考えるのが分かりやすい。マンガラボ!の解説では、第1話は100コマ以上、以降は60〜80コマ程度が目安とされ、これは従来の横読み漫画に換算すると1話あたりおよそ12〜16ページ相当だという。
第1話だけ多いのは、読者を掴む必要があるからである。ここからは整理だが、縦読みは1話ずつ読まれて次を読むかどうかがその場で決まる形式なので、第1話の終わり方が最も重要になる。話を綺麗に閉じるより、次が気になる位置で切るほうが構造に合っている。
1枚あたりの高さの上限(低いほうに合わせれば10,000px)と1話のコマ数(60〜100コマ)を突き合わせると、1話は複数枚に分割してアップロードするのが前提だと分かる。つまり作業も、長大な1枚のキャンバスで作ってから切り出すか、最初から分割して作るかを選ぶことになる。制作ソフトの中には、縦読み向けの用途設定を持ち、長いキャンバスを指定した枚数に自動で分割して書き出せるものがある。どのソフトにその機能があるかは「制作環境の整え方」に整理した。
ネームと余白:スクロールを設計する
横読みのネームは、紙面という決まった面積にコマを配分する作業だった。縦読みではその制約がない代わりに、時間の配分を決める作業になる。長さの単位はページではなく、スクロールの量である。
実際的な作り方としては、細長い帯を用意して、そこに上から順にコマを並べていく。このとき、スマートフォンの画面1つ分がどれくらいの長さになるかを、ネーム用紙にあらかじめ線で引いておくとよい。何pxが1画面かは機種によって違うので、数字を推測せず、自分の端末で実際に投稿サイトを開いて、1画面に何コマ入るかを見て決めるのが確実である。目安線を引いておけば、その線をまたいで見せ場が分断されていないかを、ネームの段階で確認できる。
**見せ場が画面の切れ目にかからないようにする。**これは横読みでいうところの、見開きの綴じ目に顔を置かないのと同じ配慮である。縦読みでは切れ目が固定されていないぶん厄介だが、目安の線を引いておくだけで事故は減る。
縦読みで最も効く道具が、コマとコマの間の余白である。マンナビの解説では、コマ間を空けることで場面転換・情景描写・タメやヒキの3つの演出が得られると整理されている。
横読みの「間」は紙面の余白の大きさでしかないが、縦読みの間は読者が指を動かしている時間そのものになる。長い余白は、読者に「何かが起きる」と予告する。だから、見せ場の直前に余白を置く。この一点だけでも、縦読みの原稿は目に見えて良くなる。
大ゴマの扱いも独特である。同解説は、大ゴマは見開き漫画で半ページから1ページを大胆に使う感覚に近く、画面からはみ出してもよいという気持ちで縦幅を使うものだとしている。一方でキメゴマ(決着の見せ場)については、スマートフォン1画面分にほぼ収まり、人物や状況が把握できるように見せるべきだとしている。**溜めは長く、決めは1画面に収める。**この使い分けが縦読みの呼吸になる。
縦に長い背景を下地に敷き、その上に小さなコマをカットインで重ねる作り方も紹介されている。スクロールにつれて背景が流れ、映像的なテンポが生まれる手法で、これは横読みには存在しない構造である。
カラー前提であることの意味
カラーは、モノクロ原稿にトーンの代わりに色を乗せる作業ではない。縦読みではコマ枠が薄く、背景も色面で処理されることが多いため、色そのものが場面の区切りを担う。
実務的には、話の中の場面ごとに色の方向を先に決めてしまうのが扱いやすい。昼の場面は暖色寄り、回想は彩度を落とす、といった具合である。読者は色が変わった時点で「場面が変わった」と受け取るので、台詞での説明が減らせる。
もう一つ、作業量の問題がある。モノクロと違い、線画のあとに彩色と背景の工程が丸ごと乗る。1話60〜80コマをすべて着彩するのは、個人でやると相当な時間になる。ここが縦読みで一人が潰れる最大の原因なので、着彩の手数を減らす設計を最初にしておく。人物は影を1段のみにする、背景は写真加工や3D素材を下敷きにする、彩度の高い色を1話に2色までに絞る、といった制限を先に決めると、話数を重ねられる。
分業の実際
縦読みが商業ベースでスタジオ制作になっているのは、この作業量が理由である。
LINEマンガの WEBTOON STUDIO は、分業制の職種として企画脚本・ネーム・背景3D・線画・着彩・仕上げの6つを挙げている。同記事は「絵は苦手だが企画・脚本に挑戦したい」「イラストには自信がある」といった各自の得意分野を活かして参加できる形だと説明している。
この分け方は、個人で作る場合にもそのまま使える。ここからは整理だが、6職種の並びは工程を切る位置の見本として読むとよい。一人でやるとしても、この6つを別々の日に分けて行うほうが速い。ネームを考えながら着彩することはできないし、脚本を練りながら背景を描くと両方が中途半端になる。
一緒に作る相手が見つかるなら、最初に切るべき境目は「線画まで」と「着彩以降」である。ここが技能的にも作業量的にも分かれやすい。
投稿までの段取り
最後に、1話を出すまでの流れを整理しておく。ここからは当サイトの整理である。
まず投稿先を1つ決め、その公式ガイドラインを開いて、幅・高さ上限・枚数上限・容量上限の4つを書き写す。次に作業用のキャンバスを、書き出し幅の2倍で作る。ネームを帯状に組み、1画面の目安線で切れ目を確認する。線画、背景、着彩、仕上げの順に進め、最後に書き出し幅へ縮小して分割し、容量を確認してからアップロードする。
この順番のうち、最初の「4つの数値を書き写す」を飛ばさないこと。作り終えてから規定に合わないと分かると、分割し直しか、最悪の場合は作り直しになる。数値はサイトごとに違い、更新もされる。ここに書いた値は2026年8月時点で公式ページに載っていたものだが、投稿の前には必ず自分で確認してほしい。
つまずきどころ
縦に長くしただけになる。 横読みのコマ割りをそのまま縦に並べると、余白がなく、1画面に情報が詰まりすぎる。1画面1〜3コマの原則に戻す。
1話が終わらない。 60〜80コマを目標に置き、そこに収まるように話を切る。話の切れ目で切るのではなく、コマ数で切って、その位置に引きを作る。
着彩で力尽きる。 上に書いた制限を先に決める。第1話を凝って作り、第2話が出せずに終わるのが最も多い失敗の形である。続けられる密度が、その人の正しい密度だと考えたほうがよい。
投稿したらぼやけた。 書き出しサイズと作業サイズを確認する。作業サイズが小さすぎたか、圧縮のかけすぎである。容量上限(サイトにより1枚2MB前後)に収めようとして品質を落としすぎていないかも見ておく。