コマ割りと構図:読者の目をどう動かすか
コマ割りは、絵を四角で囲む作業ではない。読者の目を、こちらの決めた順路で歩かせる作業である。同じ絵と同じ台詞でも、コマの並べ方ひとつで、伝わる速度も、どこに驚くかも変わる。
この記事では、コマ割りと構図を「読者の目をどう動かすか」という一本の軸で整理する。ネームをどう組み立てるかという工程の話は別記事「ネームの作り方」に、縦読み漫画の作法は「縦読み漫画の作り方」に分けてある。
読む順路には決まった向きがある
日本の漫画(右綴じ)は、右から左へ、上から下へ読み進む。アドビの解説でも、コマ割りは基本的に見開き単位で考えるものであり、読者は右から左・上から下へ読み進めるとされている。見開き2ページで見れば、右ページの右上に始まり、左ページの左下で終わる一本の順路になる。読者はこの順路を無意識に期待しているので、コマがそれに沿っていれば説明は要らない。逆に、この期待を裏切ると読者は必ず一度立ち止まる。
初心者の原稿で読み順が壊れる場所は、ほぼ決まっている。横並びのコマと縦並びのコマが同じ高さで混ざる場所である。たとえば右に縦長のコマがあり、左に横長のコマが2段積まれているとき、読者は右のコマの次にどちらへ行くべきか迷う。迷わせないための素朴な対処は、段をまたぐ切れ目を作らないことだ。ページを一度、横の帯(段)に分けてしまい、各段の中だけで縦に割る。この作り方をしている限り読み順は壊れない。
慣れてきたら、段をまたぐ大きなコマを混ぜてよい。そのときは、次に読むコマとの間隔を、他より明確に狭くする。間隔が狭いほうが「次」だと読まれるからである。
コマの大小と間が、読む速度を作る
コマの大きさは、そのまま「そのコマにかける時間」になる。大きいコマは長く見られ、小さいコマは速く通り過ぎる。だから、コマの大小を並べることが、そのページの読む速度の設計になる。
割り方の入口としては、ページを縦に3分割し、そこから横に2〜3分割して強弱をつける方法がある。1ページのコマ数は、多くても8コマ、現在は5〜7コマであることが多いとされる。この基準から始めて、見せ場のページだけコマを減らす。
ここからは整理だが、リズムは「同じ大きさを3つ以上続けない」と考えると作りやすい。均等な4コマが並ぶページは、情報が入っていても印象に残らない。大・小・小・大のように差をつけると、大きいコマが自然に強調される。強調は、大きくすることではなく、周りを小さくすることで作られる。
コマ枠そのものより効くのが、コマとコマの間の余白である。ここが狭ければ出来事は連続して起き、広ければ時間が飛ぶ。段と段の間を大きく空ければ場面転換の合図になり、逆に台詞の応酬を詰めたいときは間隔を詰める。
制作ソフトの機能としては、コマ枠の太さや間隔は自由に設定できるようになっている(CLIP STUDIO PAINT の枠線ツールでも線の太さを数値で指定できる)。標準値が決まっているわけではないので、1つの作品の中で一貫していることのほうが、値そのものより重要になる。ページごとに間隔が変わると、読者は意味のない揺らぎを意味だと受け取ってしまう。
もう一つ、間の使い方で覚えておくと得をするのが「何も起きないコマ」である。人物が黙っている、背景だけが映る、風景の一コマが挟まる。こうしたコマは情報を運ばないが、その前後の出来事に重みを与える。台詞の応酬の後に無言のコマを1つ置くだけで、直前の言葉が読者の中に残る時間ができる。初心者の原稿はここが省かれがちで、内容は詰まっているのに軽く読めてしまう原因になっていることが多い。
カメラを決める:引き・寄りと、アオリ・フカン
コマが決まったら、その中に何をどれだけ入れるかを決める。これは撮影のカメラ位置を決める作業に近い。
egaco の構図解説では、基本の型としてアップ・ミドル・ロングが挙げられている。アップは顔だけを映して表情を強く出す。ミドルはバストアップまで入り、人物同士の関係を見せる。ロングは全身と背景を入れ、状況を説明する。同解説はミドルを多用すると「顔漫画になりやすい」と注意しており、場面転換の直後については「どこに移ったか分かるようにできるだけ背景を入れましょう」としている。
ここからは当サイトの整理である。**台詞を読ませたいコマは引き、表情を見せたいコマは寄り。**そして、慣れるまでは場面の最初のコマを例外なくロングにすることを勧めたい。出典が「できるだけ」と書いている部分を、最初の1本に限って規則に格上げする、という意味である。この2つを守るだけで、「どこにいるか分からない」「誰が喋っているか分からない」という2大事故はほぼ防げる。
カメラの高さを変えると、同じ人物でも意味が変わる。下から見上げるのがアオリ、上から見下ろすのがフカンである。
egaco の解説では、アオリは緊張感や強さを演出し、フカンは弱さを表すとともに人物同士の位置関係を明確にする、と整理されている。背景美塾の講座も、アオリやフカンを取り入れるだけで印象が大きく変わり、心情を強調できると述べ、縦または横に制約されたコマでも構図の工夫で必要な要素を入れられると説明している。
ここも当サイトの整理だが、使い方の指針としてはアオリとフカンは1ページに1回までにしておくと外しにくい。多用すると画面が落ち着かず、どのコマが特別なのかが分からなくなる。難しい角度が描けないうちは、まず「目線の高さ」で全部描き、決めのコマだけアオリかフカンに振る。これで十分に効果は出る。
見開きという、いちばん大きなコマ
右綴じの漫画では、2ページが左右に並んで同時に目に入る。この2ページを1枚の絵として使うのが見開きで、漫画で使える最大のコマにあたる。アドビの解説も、コマ割りは基本的に見開き単位で考えるものだとしている。
見開きが効くのは、それがページをめくった直後にしか置けないからである。読者が紙を返した瞬間に、予想より大きい絵が視界いっぱいに入る。この落差が効果の正体で、絵の巧拙より配置の問題が大きい。逆に言えば、めくりの位置と合っていない見開きは、ただ大きいだけの絵になる。めくりの数え方は別記事「ネームの作り方」に書いた。
使う回数は、8ページの読み切りなら0回か1回でよい。2回使うと、どちらも印象が薄れる。また見開きの中央(紙の綴じ目)に人物の顔を置くと、製本後に読めなくなる。中央には情報を置かないのが基本になる。
効果線と描き文字も、視線を動かす部品である
集中線や流線は、装飾ではなく視線の誘導装置として働く。集中線は中心へ目を引き寄せ、流線は動きの方向へ目を流す。だから、そのコマで見せたいものと、線の向かう先を一致させる。集中線の中心に何もない、流線の向きと人物の進行方向が逆、といった不一致は、読者に小さな引っかかりを残す。
描き文字(吹き出しに入れない書き文字)についても、小学館の講座は「読み飛ばされてもいい」程度の軽さで使うもので、背景の一部として機能すると説明している。つまり、読ませたい情報を描き文字に載せてはいけない。物語の進行に必要な言葉は吹き出しに入れる。効果音や気配のような、読み飛ばしても支障のないものだけを描き文字にする。
台詞と吹き出しをどこに置くか
コマ割りを決めてから台詞を流し込むと、たいてい入らない。アドビの解説も、吹き出しはコマ割りを決める段階で同時に決めるべきだとし、それが読者に正しい順番で話を追わせることにつながると述べている。
具体的には、ネームの段階で吹き出しの四角を先に置き、残った面積に絵を描く。台詞が多いコマは、絵の面積が狭くなる。これを先に知っておくと、「このコマは台詞が3つあるから、全身は入らない。顔だけにしよう」という判断が前倒しでできる。
吹き出しも、コマと同じ順路の上に乗っている。小学館のまんが家養成講座では、フキダシも本文と同じく右から左へ読まれること、そして話者の絵に近い位置に置くことが必須だと説明されている。この2つが噛み合わないときに起きるのが「たすきがけ」で、右の人物の吹き出しが左に、左の人物の吹き出しが右に来ると、読む順路と話者の対応が交差する。同講座はこの配置を「とても読みづらいコマになってしまいます」とし、人物の配置自体を変えることを勧めている。
初心者が実際に事故るのは、この一点である。吹き出しの位置は、絵より先に決まっていると考えたほうがよい。誰が先に喋るかで吹き出しの左右が決まり、その左右に合わせて人物を立たせる。この順序を逆にすると、絵を描き直すしかなくなる。
同講座は台詞の書き方についても注意を挙げているが、そちらは順路の問題ではなく分量の問題なので、別記事「ネームの作り方」で扱った。
もう一つ、位置に関わる実務上の注意がある。同講座は、タチキリの場合に原稿用紙の内枠(基準線)からはみ出すと印刷時に文字が切れる危険があるとして、「なるべく内枠の中におさめるようにしましょう」としている。**内枠は断裁線ではなく、断裁のブレで欠けても困るものを収めておく安全枠である。**実際に断裁されるのは、その外側にある仕上がり線だ。枠の意味と原稿サイズの関係は「制作環境の整え方」に整理した。
迷ったときの手順
以上を、1ページを割るときの順番としてまとめておく。ここからは当サイトの整理である。
まず、そのページで絶対に見せたいコマを1つ決める。次に、そのコマにページの3分の1から半分の面積を与える。残りの面積を段に分け、各段の中で必要なコマ数に割る。それから、各コマのカメラ(寄り・引き・高さ)を決める。最後に吹き出しの位置を置き、はみ出した台詞を削る。
この順で作ると、少なくとも「何を見せたいか分からないページ」にはならない。逆に、コマ枠を先に均等に引いてから中身を考えると、どのコマも同じ重さになり、ページ全体が平坦になる。割ってから決めるのではなく、決めてから割る。
つまずきどころと、その抜け方
読み順が分からないと言われる。 段で分ける割り方に戻す。段をまたぐコマを一度すべて廃止し、それでも成立するかを確認する。そのうえで、どうしても必要な1コマだけ復活させる。
ページが単調になる。 原因はコマの大小ではなく、カメラの単調さであることが多い。全コマがミドルになっていないかを確認する。1ページの中に、寄りと引きが最低1つずつ入っているかを数える。
決めのコマが効かない。 周りのコマが大きすぎる。決めのコマを大きくするのではなく、その手前3コマを小さくする。溜めがない見せ場は、大きくしても効かない。
背景が描けず、画面が持たない。 引きのコマを減らし、寄りと、人物の一部(手・目・足元)を映すコマを増やす。ただし場面の最初の1コマだけは引きで背景を入れる。ここを省くと、読者は物語の中で迷子になる。