ネームの作り方:漫画の設計図をどう組み立てるか

ネームは、漫画の設計図である。どのページに何が起き、それを何コマに割り、どのコマにどの絵と台詞が入るかを、荒い線で決める工程を指す。清書ではないので絵の上手さは要らない。棒人間と丸で足りる。

にもかかわらず、初めて漫画を描く人が最も長く止まる場所がここである。理由ははっきりしていて、ネームは同時に3つのことを決めなければならないからだ。話の順番、1ページに入る量、そして絵としての見せ方。この3つを一度に考えようとすると手が止まる。以下では、この3つを順番に分けて片付ける手順を示す。

ネームは「直す費用がいちばん安い段階」

ネームを軽く扱うと、後の工程で必ず代償を払う。ペン入れまで進んだ原稿の構成を直すのは、描き直しとほぼ同義だからだ。逆に言えば、ネームは紙とペンだけで何度でも壊せる。ここで壊せるだけ壊しておくのが正しい使い方である。

デジタルで描く場合、公式の講座ではネーム用のレイヤーを作って下描きレイヤーに設定し、レイヤーカラーを青などに変えて後の下描きと区別する方法が紹介されている。この設定にしておくと、ネームの上にそのまま下書きを重ねられ、工程の継ぎ目がなくなる。アナログならコピー用紙で十分で、原稿用紙に描く必要はない。むしろ原稿用紙に描くと「もったいない」が働いて壊せなくなる。

回数の目安を挙げるなら、8ページのネームで3回描き直すのは普通のことだと考えてよい。1回目は入るかどうかを見る、2回目は削る、3回目で見せ場を立てる、という進み方になることが多い。

手順1:プロットをページに割り振る

まず、絵のことをいったん忘れる。プロットの場面を、ページ番号の上に置くだけの作業をする。

8ページなら、たとえば1ページ目に導入、2〜3ページ目で状況と関係の説明、4〜5ページ目で問題が起きる、6ページ目で転換、7〜8ページ目で決着、といった置き方になる。この段階で書くのは「このページで何が起こるか」の1行だけでよい。

公式講座のネーム解説では、後半のページから逆算して構成を決めるやり方が紹介されている。見せ場を先に置き、そこへ向かって前半を組む順序である。前から順に作ると、見せ場が来る前にページが尽きるという事故が起きやすい。逆算にはそれを防ぐ効果がある。

ここで「1ページに入りきらない」と分かったら、場面を削る。増やすのではなく削る。8ページの読み切りに場面が7つあるなら、それは8ページの話ではない。

ページ割りの目に見える形として、紙1枚に小さな四角を8つ並べて描き、その中に1行ずつ書き込む方法を勧めたい。いわゆるサムネイルである。1ページを実寸で描くと1ページ分の都合しか見えないが、8ページを一望できる大きさで並べると、話がどこで停滞しているか、どこに山が寄っているかが一目で分かる。全体を一度に見られる大きさで作るのが、この段階の要点になる。

手順2:1ページのコマ数を決める

次に、各ページを何コマに割るかを決める。何コマが妥当か、どう分割するか、コマの大小が読む速度にどう効くかは、別記事「コマ割りと構図」に出典付きで整理した。ここでは、ネームの工程としてその決定をどの順番で下すかだけを扱う。

**コマ数から決めない。**そのページで絶対に絵として見せたいものを1つ選び、それに大きいコマを与える。残った面積を、必要な情報の数で割る。この順序にすると、コマ数は結果として決まる。逆にコマ枠を先に引くと、入りきらない絵と余る面積が同時に発生して、どちらも直せなくなる。

見せたいものが1つに絞れないページは、たいてい詰め込みすぎている。2つあるなら、片方を隣のページに送れないかを先に検討する。

つまずきどころは「どのページも同じ見た目になる」である。原因は、全ページを同じ手つきで割っていることにある。迷ったときの初期値として、説明のページは細かく、感情のページは大きくと覚えておくとよい(ここからは当サイトの整理である)。状況や設定を伝えるページはコマ数を増やして情報を分割し、人物の心が動くページはコマを減らして絵を大きくする。細かいページばかりが続くと読者は疲れ、大きいコマばかりが続くと話が進まない。

手順3:1ページの情報量を測る

ネームが読みにくくなる原因の大半は、コマ割りではなく台詞の量である。吹き出しをどこに置くかは別記事「コマ割りと構図」で扱う。ここで測るのは、その量だ。

小学館のまんが家養成講座は、ずらずらと詰め込んだ文字は読みにくいので「文節で区切って改行してあげると、格段に読みやすくなります」とし、長い台詞は1つの巨大な吹き出しにせず「2つに分けたほうが、はるかに見やすくなります」としている。つまり、台詞が長いという問題は、書き方ではなくコマの割り方の問題として返ってくる。

ここからは当サイトの整理だが、ネーム段階では1コマの吹き出しは2つまで、1つの吹き出しは3行程度までを上限として考えるとよい。これを超えたら、コマを分けるか、台詞を絵に置き換えるかのどちらかを検討する。「悲しい」と言わせる代わりに、うつむいた顔を1コマ入れるほうが早いことは多い。

もう一つの測り方として、そのページを声に出して読んでみる方法がある。読む速度は人によって違うので秒数の基準は置かないが、自分で音読して息が続かないページは、読者にとっても重い。ネームの中で明らかに時間のかかるページが1枚だけあるなら、そこは削るか、2ページに割るかを検討する価値がある。

手順4:めくりを使う

右綴じの漫画は右から左へ読み進み、左ページの左下まで来ると、そこでページをめくる。このめくりの直前と直後は、読者の注意がいちばん強くなる場所である。左ページの最後のコマで問いを立て、めくった先の右ページで答えを見せる。これが漫画にしかない仕掛けだ。

公式のネーム解説でも、意外性のある展開を「ページめくり」の位置に合わせて配置したという作例が示されている。見せ場をめくりに合わせるだけで、同じ内容でも効き方が変わる。

ただし、めくりが何ページ目と何ページ目の間に来るかは、1ページ目が右ページか左ページかで丸ごとずれる。ここを先に確定させないと、以下の計算がすべて1ページ分狂う。

見開きは、右ページと左ページが対になって同時に目に入る。その対の中では紙をめくらないので、めくりは見開きと見開きの境目にだけ存在する。したがって、どのページが対になるかが分かれば、めくりの位置は自動的に決まる。

1ページ目が右ページ始まりなら、対になるのは1・2、3・4、5・6、7・8である(各対の右が奇数ページ)。めくりは2と3の間、4と5の間、6と7の間の3か所になる。

1ページ目が左ページ始まりなら、1ページ目は対の相手を持たず単独で左に置かれ、以降は2・3、4・5、6・7が対になる(各対の右が偶数ページ)。めくりは1と2の間、3と4の間、5と6の間、7と8の間の4か所に増える。

集英社の社会人少年漫画賞は、原稿を「左ページから始まるよう描いてください」と定めている。この賞に出すなら後者、つまり1と2の間、3と4の間、5と6の間、7と8の間がめくりである。応募先ごとに規定は異なるので、出す先が決まっているなら先にその要項を見て、ネームを描き始める前にどのページが右でどのページが左かを紙に書いておくこと。

ネームで止まったときの抜け方

止まり方には型がある。よくあるものを4つ挙げ、それぞれの逃げ道を書く。

1ページ目が描けない。 導入をきれいに作ろうとして止まる形。抜け方は、1ページ目を後回しにして2ページ目から描くこと。導入は「その話でいちばん強い場面」が決まってからのほうが作りやすい。最悪、主人公が何かをしている絵から始めて、説明を後から足しても成立する。

コマの中の絵が思い浮かばない。 抜け方は、絵を四角と丸で置いてしまい、横に「教室・引き・二人」のように文字でメモを書くこと。ネームは他人に見せる清書ではないので、文字で書いてよい。絵の詰めは下書きの仕事である。

話が進まない/長くなる。 場面を1つ消してみる。消しても話が通じるなら、その場面は要らなかった。通じなくなるなら、その場面が担っていた情報を、別の場面の台詞1行に移せないかを考える。

何度描いてもつまらなく見える。 これは最も多い止まり方だが、原因はたいてい判定の早さにある。ネームは絵が荒いので、面白さが見えにくいのが普通である。抜け方は、判定をやめて最後まで通すこと。8ページ通したネームを一晩置いて翌日読むと、昨日の判定はほぼ当てにならなかったと分かる。通し終える前に評価しない。

ネームを人に見せる

ネームは絵が荒いので人に見せにくいが、見せる価値がいちばん高いのもネームである。ここで見つかった問題は、まだ数時間で直せるからだ。完成原稿で同じ問題が見つかっても、もう直せない。

見せるときに聞くとよいのは、感想ではなく事実確認である。「この人物が何をしようとしているか分かるか」「どこで場面が変わったか分かるか」「読む順番に迷ったコマはあるか」。この3つに答えてもらえれば、直すべき箇所はほぼ特定できる。「面白かったか」を聞くと、相手は気を遣って答えるうえに、直し方に結びつかない。

読んでもらう相手がいない場合は、時間を空けて自分で読む。半日から一晩置くだけでも、描いていたときの記憶が薄れ、読者に近い状態で読める。声に出して読むと、台詞の量と読む順番の詰まりが同時に分かるので効率がよい。

ネームが終わったかどうかの確認

次の5点が言えたら、下書きに進んでよいと考えている(ここからは当サイトの整理である)。

第一に、各ページで何が起きるかを1行で言えること。言えないページは、そのページの役割が決まっていない。第二に、いちばん見せたいコマがどれか指させること。第三に、めくりの位置に何が来るかを把握していること。第四に、台詞を読み飛ばしても大筋が分かること。絵だけで話が追えないなら、絵の仕事が足りていない。第五に、描けない絵が残っていないこと。残っているなら、下書きで必ず止まる。

この5点を通ったネームは、そのあと機械的に完成まで運べる。逆に、この5点のどれかを飛ばして進むと、ペン入れの途中で戻ることになる。ネームに時間をかけるのは慎重さではなく、総作業時間を短くするための投資である。

出典

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