構図の作り方:型・視線誘導・余白の使い分け
キャラクターは描けるのに、絵として弱い——という状態の多くは、構図で説明がつく。人物の出来と、画面全体の設計は別の技能だからである。この記事は構図を扱う。人体の描き方や色の選び方には別の記事があるので、ここでは画面のどこに何を置くかという一点に絞る。
構図とは「どこに何を置くか」の決定
構図は、絵を描く前に決めるものである。この順序を逆にしている人が多い。キャラクターを描き、色を塗り、最後に「背景をどうしよう」と考える。この順序だと、キャラクターの位置がすでに固定されているので、構図の選択肢がほとんど残っていない。
キヤノンの写真用語集は、フレーミングを「画面構成のこと。ファインダーを覗いて、被写体を配置する位置や配色、ボケ具合などを決めること」と説明している。写真の場合はシャッターを切る前に決めざるを得ないが、絵はいくらでも後回しにできる。だからこそ、意識的に前倒しする必要がある。
具体的には、線画に入る前に、キャンバスを縮小表示して、四角と丸だけで「主役をどこに置くか」「余白をどこに残すか」を数パターン作る。5分で3案。この段階では絵として下手でよい。判断するのは配置だけである。
この5分を惜しむと、後の何時間かを失うことがある。構図の失敗は、線画や色の失敗と違って、部分の修正では直らない。画面全体の配置が原因なので、直そうとすると描き直しになる。構図は、最後に直せない数少ない要素だと考えておくとよい。
型を三つだけ覚える:日の丸・三分割・対角線
構図の型は無数に語られるが、最初は三つで足りる。
日の丸構図は、主役を画面中央に置く型である。キヤノンの写真用語集は「主被写体を画面中央に配置してしまうフレーミングを『日の丸構図』といいます」とし、初心者による良くない例とされることが多いが、意図的に使う価値もあると説明している。同社の野鳥撮影の解説では「もっとも基本的で、初心者が被写体を捉える際に有効」とも述べられている。つまり日の丸は禁じ手ではない。正面を向いたキャラクターを堂々と見せたいとき、対称性を強調したいときには最適解になる。悪いのは、日の丸を選んだのではなく、他を検討しないまま中央に置いてしまう状態である。
三分割法は、画面を縦横に三分割し、その線上または交点に主役を置く型である。キヤノンの用語集は「画面を縦横均等に三分割して、線の交差した4つのポイントに被写体を配置するとまとまったフレーミングに見える」と説明する。野鳥撮影の解説は、これによって「被写体の物語を感じさせ」る効果があるとしている。イラストでも同様で、CLIP STUDIO TIPS の構図講座は、フレームを三分割して交わる4点のいずれかに主役を置くことを第一段階に据えている。
似た概念に黄金分割がある。キヤノンの用語集によれば、これは「画面内に対角線を引き、別の頂点からその対角線に垂直線を引いた交点である4つのポイント」に被写体を配置する構図である。三分割法とは作図が違うが、どちらも中央を外した4点に置くという点では同じ発想に立つ。初心者のうちは三分割法だけ覚えておけば実務上は困らない。
三つめの対角線構図は、ここからは整理になるが、主要な要素を画面の対角線に沿って並べる型である。斜めの線は水平・垂直より動きを感じさせるので、走る・倒れる・振り向くといった動作を含む絵と相性がよい。人物を斜めに傾けるだけでも成立する。
三つの型は、どれかが正しくてどれかが間違いというものではない。型は、何も無いところから配置を決める負担を減らすための足場である。慣れてくれば型を意識しなくなるが、その段階に至るまでは、型に当てはめて描いたほうが早い。迷ったときは三分割、正対させたいときは日の丸、動きを出したいときは対角線、という程度の割り振りで十分に機能する。
ショットの大きさを先に決める
型と同じくらい重要なのが、画面に対して人物をどれくらいの大きさで入れるかである。CLIP STUDIO TIPS の構図講座は、ここを独立した工程として扱い、ロングショット、フルショット、ニーショット、ウエストショット、バストアップ、クローズアップ、スーパークローズアップという段階を挙げている。そして「イラストが何を伝えたいか」で選ぶとしている。
この考え方は実際的である。表情を見せたい絵をフルショットで描けば、顔は小さくなって伝わらない。逆に、衣装のデザインを見せたい絵をバストアップで描けば、下半身が切れて見えない。描きたいものが決まれば、ショットは自動的に絞られる。
初心者が陥りやすいのは、常にフルショット(全身)で描こうとすることである。全身は難しいうえ、画面内で人物が小さくなるので、描き込みの手間の割に見せ場が弱い。最初のうちは、バストアップやウエストショットのほうが、完成度が上がりやすい。
画面の比率も、ショットと同時に決めておきたい。縦長は人物の全身や上下の動きに向き、横長は複数人の関係や背景の広がりに向く。正方形は上下左右が対等なので、中央に置く構図と相性がよい。投稿先によって表示のされ方が変わるため、どこに出す絵なのかを先に決めておくと、比率の判断が楽になる。
視線誘導という考え方
視線誘導とは、見る人の目が画面のどこを、どの順に通るかを設計することである。同じ構図講座は、視線誘導の作り方として三つを挙げている。大きいものから小さいものへの流れで奥行きを出す、並んだ要素の連なりで視線を集中させる、そして疎密のコントラストで特定の箇所に注意を引く。
三つめの疎密は、初心者がすぐ使える。画面のどこか一箇所だけ描き込みを密にし、他を粗くする。人は密度の高い場所を先に見る。逆に、画面全体を均等に描き込むと、どこを見ればいいか分からない絵になる。均等な描き込みは丁寧さではなく、判断の放棄になりうる。
明度差も視線を誘導する。画面内でいちばん明るい点と、いちばん暗い点が接している場所に、目は真っ先に行く。見せたい場所——たいていは顔——にその接点を作れば、視線はそこに落ちる。これは色の記事で触れたグレースケール確認と同じ操作で検証できる。
余白とキャラの向き
余白は「何も無い場所」ではなく、意味を持つ要素である。キヤノンの野鳥撮影の解説には、被写体の「目線の先に空間が入ることで安定した雰囲気になる」という記述がある。カメラを縦位置にしたことで「鳥の目線の先が広がり、動きを感じられるようになった」という実例も挙げられている。
これはイラストでもそのまま使える。キャラクターが右を向いているなら、右側に空間を残す。向いている方向を壁で塞ぐと、窮屈さや圧迫感が出る。逆に言えば、追い詰められた場面を描きたいなら、あえて向いている方向を塞げばよい。余白の置き方は、そのまま感情の表現になる。
キャラクターの向きにも意味がある。正面を向いた人物は、見る人と正対するので強い印象を与えるが、動きは出にくい。斜めを向くと動きが出る。顔だけこちらを向いて体は別方向、という組み合わせ(振り向き)は、動きと視線の両方を作れるため、一枚絵では扱いやすい。
余白の量そのものも設計対象である。人物のまわりを均等に空けると平板になる。上を詰めて下を空ける、片側だけ大きく空ける、といった非対称の配分が、画面に方向を与える。
余白と関連して、画面の外に何があるかを想定しておくと絵は安定する。人物の視線の先に何があるのか、切れている手足の先がどうなっているのか。描かなくてよいが、決めておく。決めていない絵は、切り取り方が偶然に見える。
手順:構図を決めてから描く
具体的な進め方をひとつ示す。
- この絵で何を見せるかを一行で書く(表情なのか、衣装なのか、動作なのか)。
- ショットを決める。1で書いたものが最も大きく写るショットを選ぶ。
- 画面比率を決める。縦長・横長・正方形。縦は人物向き、横は背景や関係性向き。
- 三分割の補助線を出す。多くのソフトにグリッド表示機能がある。FireAlpaca のように無料で Windows・Mac に対応するソフトでも、この程度の下準備は問題なくできる。
- サムネイルを3案作る。1案あたり2分。四角と丸だけでよい。
- 縮小表示で選ぶ。原寸で見ると細部に目が行くので、必ず縮小する。
- 選んだ案の上で線画を始める。
5と6を飛ばさないことが要点である。1案しか作らなければ、それが良いか悪いかを判定する基準が無い。3案あれば比較ができる。
つまずきどころと抜け方
いつも同じ構図になる——ショットを固定しているため。次の絵は意図的に違うショットを選ぶ、というルールで一周する。
背景が思いつかない——背景を「風景」だと考えている。まずは色面と図形だけの背景でよい。人物の後ろに大きな円を一つ置くだけでも画面は成立する。
キャラを大きく描くと画面からはみ出す——サムネイルの段階で頭と足先の位置を先に打っていない。線画の前に、上下の限界線を2本引く。
構図を作っても平坦に見える——要素がすべて同じ大きさ・同じ密度で並んでいる。大きいものと小さいもの、密な場所と粗い場所を意図的に作る。
サムネイルを作っても結局違う絵になる——サムネイルを配置の検討ではなく下描きとして扱っている。サムネイルで決めるのは位置と大きさだけで、ポーズや表情はその後でよい。
背景を描くと人物が埋もれる——背景の描き込みが人物と同程度になっている。背景の密度を落とすか、明度差で人物を分離する。