色の選び方と塗り方:三属性・光と影・濁りの原因

線画までは描けるのに、色を置いた途端に絵が悪くなる——という経験は、色を塗り始めた人のほとんどが通る。原因は感性ではなく、たいてい操作している軸を自分で把握していないことにある。この記事は色の選び方と塗り方を扱う。仕上げの色調補正や書き出しについては別の記事があるので、ここでは色そのものの話に絞る。

色の三つの軸を分けて考える

デジタルで色を選ぶとき、画面には色相・彩度・明度という三つの軸が並んでいる。CLIP STUDIO の公式講座は、カラーサークルの「外側の円で色相を選び、中心の四角い部分で色の明るさや鮮やかさ(明度・彩度)を調節します」と説明している。無料ソフトでも構成は近い。Krita のように無料・オープンソースのソフトでもカラーセレクタの考え方は同じである。

三つの軸のうち、初心者がいちばん無意識に動かしてしまうのが明度である。キヤノンの写真用語集は明度を「色の明暗のこと」とし、100なら白、0なら黒になると説明している。彩度については「彩度を上げれば鮮やかになり、下げると地味になります」とあり、上げすぎると「ベタっとした塗り絵のような」仕上がりになる場合があるとも指摘されている。

この三軸を意識的に分けるだけで、色選びの精度は上がる。実践としては、色を選ぶときに「いま自分は何を変えたいのか」を一言で決める。もっと鮮やかにしたいのか(彩度)、もっと明るくしたいのか(明度)、色味そのものを変えたいのか(色相)。三つを同時に動かすと、なぜ良くなったのか・悪くなったのかが分からなくなり、次に活かせない。

もうひとつ有効なのが、塗った絵を一度グレースケールで見るという確認である。色を外すと明度だけが残る。ここで人物と背景の明暗が分かれていなければ、色を付けても分かれない。多くの「なんとなく見づらい絵」は、色の問題ではなく明度差の不足である。

光と影:影は「黒を混ぜた色」ではない

影を塗るとき、初心者がまずやるのは、基本色の明度だけを下げることである。肌色の明度を下げた影、赤い服の明度を下げた影。これは間違いではないが、絵が沈んで見える最大の原因でもある。

現実の影は、光が遮られた場所であると同時に、別の光が回り込んでいる場所でもある。屋外なら空の青、屋内なら壁や床からの反射。だから影の色は、単に暗いだけでなく、色相がわずかにずれる。実践的な操作としては、明度を下げると同時に色相を回し(暖色の光源なら影は寒色側へ)、そして彩度をやや上げる。この三軸の同時操作が、影を「暗い同じ色」から「影の色」に変える。ここで注意したいのは回す量で、ごくわずかに動かしただけでは見た目が変わらず、操作した気になって終わる。基本色と影色を並べて置いたときに、明度差だけでなく色味の差もはっきり見て取れるところまで回す。回しすぎたと思ったら戻せばよいので、まず大きく動かして当たりを付けるほうが早い。

塗る順序については、CLIP STUDIO の公式講座が明快で、各パーツごとにレイヤーを分けて基本色を塗り、その後に影色を追加する流れを示している。「イラストの部分ごとにレイヤーを分けておくことで、後の工程ではみ出しを気にせずに、彩色できます」という指摘のとおりで、はみ出しの処理に時間を取られると影を試す回数が減る。同講座は「透明ピクセルをロック」を使って、塗った範囲の中だけに影を描く方法も紹介している。無料ソフトにも同種の機能(透明部分の保護、クリッピング)はたいてい備わっている。

光源の位置は、塗り始める前に決めておく。決めていないと、パーツごとに影の向きが食い違い、あとから直せなくなる。キャンバスの隅に矢印を一本描いておくだけでよい。

色が濁る三つの原因

「色が濁る」は初心者の訴えのなかでも特に多い。原因は主に三つある。ここからは整理になる。

第一に、混色のしすぎ。反対色(色相環で向かい合う色)どうしを混ぜると、彩度が落ちて灰色に近づく。これは絵の具でもデジタルの混色ブラシでも起きる。CLIP STUDIO の公式講座は、ブラシを「色が混ざるブラシ」と「色が重なるブラシ」に分けて説明している。混ざるブラシは「塗りながら色の変化を付けることができます」が、下地と混ざり続ければ当然彩度は落ちる。濁りに悩んでいるなら、まず混ざらないブラシに切り替えて塗ってみるのが最短の切り分けになる。

第二に、影に灰色や黒を使っていること。前節のとおり、明度を落とすだけの影は色味を失う。黒に近い色をスポイトで拾って重ねると、拾うたびに彩度が落ちていく。

第三に、中間的な色ばかり選んでいること。彩度が中程度、明度も中程度の色だけで画面を埋めると、どの色も互いを打ち消す。画面のどこかに、彩度の高い場所と、明度の低い場所を意図的に作る。全体を平均的にすると、平均的に濁る。

対処としては、塗り終えた後に彩度を一律で少し上げてみる、という乱暴な確認が意外と効く。上げて良くなるなら濁っていた証拠である。ただし上げすぎると、前述のとおり塗り絵のような質感になるので、上げてから半分戻すくらいがちょうどよいことが多い。

もうひとつ、濁りとは別に「色がばらばらに見える」という症状がある。これは各パーツを独立に選んだ結果、画面全体で色相がまとまっていない状態である。対処としては、光源の色をひとつ決め、その色を薄く全体にかぶせる(あるいは各パーツの色に少しだけ混ぜる)。全体に共通の色味が乗ると、ばらついていた色が同じ場所にある色として見えるようになる。まとまりは、個々の色の正しさではなく共通因子の有無で決まる

塗り方の型:アニメ塗り・厚塗り・ブラシ塗り

塗り方には型がある。厳密な定義があるわけではないが、おおよそ次のように整理できる。

アニメ塗りは、影の境界をはっきり分け、面ごとに単色を置く塗り方である。色数が少なく、線画が残る。工程が数えられるので、完成までの見通しが立ちやすい。バケツ塗りとクリッピングだけで成立するため、無料ソフトでも問題なく描ける。

厚塗りは、線画を残さず、色の面だけで形を作る塗り方である。CLIP STUDIO の公式講座が紹介する厚塗り系ブラシ(ガッシュ、ドライガッシュ、点描など)は下地混色の機能を持ち、塗り重ねながら色を混ぜていく。同講座はガッシュを「強圧でハッキリ、弱圧でかすれ」を出せるブラシとして説明している。線に頼らないぶん、形と明暗の判断力が要る。

ブラシ塗り(水彩塗り・厚塗り寄りの中間と呼ばれることもある)は、境界をぼかしつつ線画も残す中間的な塗り方である。同講座の水彩系ブラシ——水彩丸筆、にじみ水彩、水筆など——は、にじみやかすれで境界を柔らかくする。「質感残しなじませ」や「ガッシュなじませ」のように、単体では色を塗れずになじませ専用のブラシもある。

この三つは排他的ではない。人物はアニメ塗りで、背景は厚塗りで、という混在はよく行われる。型の名前は、塗り方を分類するための言葉であって、選んだら他を捨てなければならないものではない。

どの塗り方から始めるか

ここからは整理になるが、最初の一枚はアニメ塗りから入るのを勧める。理由は三つある。第一に、工程が明確で「終わり」が判定しやすい。第二に、色数が少ないので、色の選択ミスが特定しやすい。第三に、線画が残るため、塗りが未熟でも絵として成立する。

厚塗りから始めるのが間違いというわけではない。線を引くのが苦手で、色の面で考えるほうが自然だという人は一定数いる。ただし厚塗りは「どこで完成か」が自分では判定しづらく、初心者が最初の一枚で選ぶと未完成のまま放置しやすい。始めるなら、時間で区切る(2時間で止める)という運用を併せたほうがよい。

塗り方は絵柄の一部だが、後からいくらでも変えられる。最初に決めた塗り方に縛られる必要はない。

手順:塗る順番を固定する

塗る順番を毎回変えると、うまくいった理由が分からない。次の順番を固定しておくと、比較ができるようになる。

  1. 線画を別レイヤーにする。以下はすべてその下に置く。
  2. 光源の向きを決める。キャンバスの隅に矢印を描く。
  3. パーツごとにレイヤーを分けて基本色を置く。髪、肌、服、小物。ここでは影を考えない。
  4. 全体をグレースケールで確認する。明度差が付いているかを見る。
  5. 影を一段だけ入れる。明度を下げ、色相をわずかに回し、彩度をやや上げる。二段目の影はまだ入れない。
  6. ハイライトを入れる。光源側の、いちばん出っ張っている面に少しだけ。
  7. 必要なら二段目の影と反射光を足す。ここは省略してもよい。

3と5の間に4を挟むのが要点である。基本色の段階で明度差が付いていない絵は、影をいくら足しても整理されない。

つまずきどころと抜け方

色が決まらない——選択肢が多すぎる。先に色数を3〜4色に制限する。制限があると決まる。

塗るとのっぺりする——明度差が足りない。グレースケール確認を挟む。

影の形が汚い——影を「線でなぞって塗りつぶす」のではなく、面として一度に置く。ブラシサイズを大きくすると、細かい破綻が起きにくい。

背景を塗ると人物が消える——背景の明度をキャラクターと近づけすぎている。背景側の彩度を落とすか、明度を離す。

肌の色が不自然になる——肌を単色で塗り、影も単色で入れているため。肌は面によって色相が動く(頬や指先は赤み、額や鼻筋は黄み寄りになりやすい)。基本色の上に、彩度を落とした赤を薄く一箇所だけ乗せるところから試す。

塗っている途中で嫌になる——工程が長すぎる。まずアニメ塗りで、影一段だけの絵を完成させる。塗りの精度は、完成の回数が増えてから上げればよい。

出典

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