キャラクターシート(設定資料)の作り方:人に渡せる状態まで決める
キャラクターを考えるところまでは、たいていの人ができる。難しいのはその次で、頭の中にあるものを、他人が同じように描ける形にすることである。依頼するとき、共同で作るとき、画像生成に渡すとき、あるいは半年後の自分が描き直すとき。どの場面でも必要になるのが設定資料、いわゆるキャラクターシートである。
この記事では、その中身を「三面図」「表情差分」「比較図」「決めごとの一覧」の四つに分けて扱う。形の作り方は別記事に譲り、ここでは資料としての完成度に絞る。
設定資料は自分のためではなく渡すために作る
まずこの一点を押さえておきたい。自分のためのメモなら、書かなくても覚えていることは書かなくてよい。渡すための資料は逆で、自分が当然だと思っていることほど書く必要がある。耳は本当に耳なのか飾りなのか、尾は何本なのか、目の位置は正面から見て中央より上なのか下なのか。渡す相手はそれを知らない。
CLIP STUDIO の制作記事には、デザインが固まったあとに「キャラクターの資料シート」を作る流れが紹介されている。そこでは、各パーツの機能や情報を説明するために、キャンバスに直接メモを残す方法が取られており、背面も含めて参考として機能させている。絵の横に文字を書くという、この単純な工程が資料と単なる立ち絵を分ける。
書くべきメモは、見れば分かることではなく、見ても分からないことである。「この突起は硬い」「この部分は透けている」「ここは左右で長さが違う」。見て分かることを書き写しても資料は厚くなるだけで、精度は上がらない。
三面図:正面・側面・背面
三面図は、正面・側面・背面の三方向から同じキャラクターを描いた図である。立体として成立しているかを確かめる装置であり、同時に、他人が別角度を描くための下敷きになる。
CLIP STUDIO の「キャラクターデザインのガイド」も、設定資料に含めるものとして、表情差分、異なる角度(正面・背面・側面)、動作ポーズ、服装バリエーション、アイテムの詳細、模様のプレビュー、カラーパレットの記載を挙げている。角度が一つしかない資料は、渡された側が背中を想像で埋めることになる。
描くときに決定的なのが、三面で高さを揃えることである。頭頂、目、顎、肩、腰、膝、足裏。この水平線を先に引き、三面ともその線に乗せる。線を引かずに三枚並べると、必ず背面だけ背が高い、といったずれが出る。
中心線も同様に重要になる。CLIP STUDIO のシルエット講座では、シルエットの不透明度を下げて下の形を見えるようにし、白で内側にスケッチしながら頭や体の中心線を見つける、という手順が示されている。三面図でも、正面と背面には縦の中心線を、側面には重心の位置を示す縦線を引いておくと、左右のずれが出にくい。
側面図は、初心者がいちばん手を抜きやすく、いちばん情報量の多い図でもある。正面からは分からないもの——顔の凹凸、胴の厚み、背中の反り、突起が前後どちらへ向いているか——は、すべて側面にしか出ない。厚みを決めていないキャラクターは、少し角度をつけただけで紙のように潰れる。側面を描くのが苦手なら、粘土を横から見るつもりで、輪郭だけを一本の線で追う。細部は後でよい。
三面が揃ったら、最後に一度だけ横に並べて眺める。三枚のあいだで、同じ部品が同じ数だけあるか、同じ高さにあるかを数える。ボタンの数、指の本数、模様の段数。数が合わないまま渡すと、受け取った側はどれが正なのか判断できず、結局こちらに聞き返すことになる。
最初の一体で三面すべてを完璧に描く必要はない。正面を本描き、側面と背面は輪郭と主要な線だけ、という配分でよい。背面がまったく無い資料が最も困るので、粗くても背面を入れることを優先する。
表情差分:まず四つ
表情差分は、いくつ作ればよいのかが分かりにくい。増やせばきりがないし、少なすぎると資料として機能しない。
参考になるのが、公的機関のキャラクター運用である。奈良文化財研究所のリポジトリで公開されている「キュートぐみ」のデザインマニュアルでは、キャラクターごとに複数のポーズが用意され、表情として「喜び」「困る」「驚く」などが含まれている。背面図や横姿も設定されている。多くのキャラクターに共通するのは、喜怒哀楽を機械的に四つ並べるのではなく、そのキャラクターが実際に使う表情を選んでいる点である。
最初に作るなら、次の四つを勧める。基本(無表情に近い、資料の見出しに使う顔)、喜び、困る、驚く。この四つは用途が広く、どのキャラクターでも使う場面がある。怒りは、キャラクターの性格によっては一度も使わないことがあるので、必要になってから足せばよい。
表情を作るときは、動かす部品を決めておく。目の形、眉、口、そして顔以外に何が動くか。耳が伏せるのか、体の色が変わるのか、光が強くなるのか。顔だけで感情を出す設計だと、顔のないキャラクターや、顔が小さいデフォルメで詰まる。
比較図:身長対比
比較図は、複数体の設定を作るなら必ず要る。全員を同じ床の上に、同じ縮尺で並べた一枚である。
この一枚があると三つのことが同時に確定する。誰が誰より大きいか。頭身がどれくらい違うか。そして各キャラクターの寸法が、文字の設定と一致しているか。設定に「体高六〇センチ」と書いても、絵の中で他と比べられなければ、その数字は機能していない。
基準物を一つ置くと、さらに読み取りやすくなる。人でなくてもよい。湯呑み、椅子、扉、街灯。単体のキャラクターしか作らない場合でも、基準物と並べた図は一枚作っておく価値がある。
比較図には、もう一つの使い道がある。群れとしての設計を検算できる、という点である。並べてみて全員の背丈が同じなら、それは意図ではなく、単に一体ずつ作った結果である可能性が高い。並べる前に気づける人はほとんどいない。だからこの図は、資料としてだけでなく、作りかけの段階で一度描いてみる価値がある。
並べる順序は、身長順が扱いやすい。ただし、物語上の関係が決まっているなら、その並び(親子、師弟、対になる二体)で並べたものも別に作っておくと、後から関係図を作るときに流用できる。
このサイトの /aichara/ には二百体のキャラクター案が設定込みで並んでいるが、各項目は「体長一四センチ・親指ほどの太さ」「体高四〇センチ・座った猫ほど」といった形で、数字と身近な物の両方で大きさを書いている。数字だけだと想像できず、たとえだけだと再現できない。両方を書くのは、その折衷にあたる。
何をどこまで決めれば渡せるか
渡せる状態の目安を、項目として並べておく。以下が埋まっていれば、他人が描ける確率はかなり上がる。
名前と読み。系統や所属(族、シリーズ、役割)。大きさ(数字と、比較できるたとえ)。シルエットを一文で言い切った説明。配色(役割名と、六桁のHEXなどの値)。素材感。顔の作り(目・口の形と位置)。造形上の特徴を三つ以上。性格を二つ以上。口調や声の質。決め台詞。生息場所や活動場所。できること。そして、やってはいけないこと。
このうち初心者が飛ばしがちなのが、素材感と口調である。素材感が無いと、描き手ごとに艶の入れ方が変わって別物になる。口調が無いと、絵は同じでも台詞を書いた瞬間に人格がぶれる。どちらも一行で済むので、面倒がらずに書く。
逆に、無理に埋めなくてよい項目もある。誕生日、血液型、好きな食べ物の類は、物語や運用で使う予定がないなら空欄でよい。埋めることが目的化すると、資料は厚くなるのに肝心の造形が決まらない、という状態になる。
「やってはいけないこと」の欄をつくる
設定資料でいちばん効くのに、いちばん書かれていないのが禁止事項の欄である。何を描くかより、何を描かないかのほうが、ぶれを止める力が強い。
公的なキャラクター運用では、ここが明文化されている。多古町のマスコットキャラクターのデザインガイドマニュアルは、「縦横の比率を変えない」「指定色以外を使用しない」「デザイン及びデータの複製・改変・切除・加筆・二次的使用等を無断で行わない」を挙げ、反転や加工も禁じている。奈良文化財研究所のマニュアルも同様に、縦横比を変えないこと、反転させないこと、要素を削除しないこと、指定色以外での着色をしないことを禁止事項として並べ、あわせて最小表示サイズを定めている。設定された口調と異なる表現も不可とされている点は、絵だけでなく言葉にも禁止事項が要ることを示している。
個人の創作でも、同じ形式が使える。「垂れかけの一滴を落とさない」「手足を描かない」「炎を周囲に描かない」といった具合に、そのキャラクターらしさを壊す描き方を三つから五つ書き出す。この欄は、画像生成に渡すときにもそのまま流用できる。
作る順序と時間配分
一体分を作る流れを、時間の目安つきで書いておく。無料の描画ソフトでも紙でもよい。
三十分で、シルエットと正面の立ち絵を決める。ここは形の設計なので、色は入れない。次の二十分で配色を決め、役割名と値を書き留める。次の三十分で側面と背面を、水平線を引いた上で描く。次の二十分で表情を四つ。次の十分で比較図。最後の十分で、文字の項目とやってはいけないことを埋める。合わせて二時間ほどになる。
一度に仕上げようとしないほうがよい。三面図まで描いた時点で一晩置き、翌日に見返すと、正面だけで気づかなかった破綻が見える。資料は、作った直後がいちばん粗が見えない。
つまずきどころと抜け方
設定は書けるのに絵に落ちない——文字の項目から作っている。シルエットと正面の絵を先に確定させ、文字はそれを説明する形で書く。
三面図の高さが揃わない——水平線を引いていない。頭頂・目・肩・腰・足裏の線を先に引き、三面ともその上に乗せる。
背面が描けない——描けないのではなく決めていない。髪や服の合わせ目、留め具、模様の続き方をその場で決める。決めたら資料に文字で書く。
表情を増やしすぎて終わらない——四つで止める。基本・喜び・困る・驚く。足すのは使う場面が出てからでよい。
渡したら別のキャラクターが返ってきた——禁止事項の欄が無い可能性が高い。何をしないかを三つ以上書く。
半年後に自分で描き直せない——色を値で持っていないか、素材感を書いていないかのどちらか。両方を一行ずつ足す。